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2012/12/29

坂本勝前所長の受賞!

能楽研究所の前所長、坂本勝教授が、「古事記出版大賞・しまね古代出雲賞」を受賞されました。おめでとうございます。日本文学科のサイトに詳しい情報がありますので、どうぞご覧下さい。

http://nichibun.ws.hosei.ac.jp/wp/

2012/12/13

みちのくの能・狂言

能楽研究所創立六十周年企画の第三弾として、昨日から国立能楽堂展示室において「みちのくの能・狂言」と題する展示が行われています。

国立能楽堂との共催により、同能楽堂の「収蔵資料展」の枠組みで開催される展示ですが、今回は企画も含めて、私が担当する大学院の授業「能楽資料研究」に参加する学生が中心となって行ってきました。

それぞれ企画案を持ち寄って相談した結果、学生の一人の「今だからこそ、ぜひみちのくの能・狂言を取り上げたい」という企画に全員が賛同。それから展示する資料を選定し、キャプションを執筆し、と、二か月かけて取り組んできた成果をご覧いただきます。

能の作品には東北を舞台にしたものが数多くあります。また、東北諸藩の中にも能を盛んに行っていたところが少なくありませんでした。黒川能や中尊寺の僧侶による能など、興味深い伝承もあり、ネタには事欠きません。ところが、意外にもこれまで東北と能とのかかわりを取り上げた展示というのはほとんど聞いたことがありません。私が知る範囲内では、今から三十年くらい前に秋田県立博物館で「東北の仮面」と題する展示が行われたのが、ほとんど唯一の例外といってよいのではないでしょうか。

ということで、今回は東北に関するなかなか新しい一面をご紹介できるのではないかと思っています。あらためて調べてみると、能楽研究所の資料の中にも、東北関係のものが意外に沢山ありました。展示資料の中にも、今回が初公開というものも少なからず含まれています。
一月三十一日まで開催中。三十日には展示に関連する講座も開催いたします。
詳細は下記アドレスをご参照ください。

http://www9.i.hosei.ac.jp/~nohken/activities/events.html
http://www.ntj.jac.go.jp/nou/event/1884.html

2012/11/26

今年も現代能楽論(身体芸術論)

今年度も、現代能楽論(身体芸術論)の実習が終わりました。矢来(九皐会)と青山(銕仙会)の能楽堂をお借りして、それぞれ2コマ(3時間)ずつ。
昨年度は矢来での様子(唐織を実際に手にとりはおり、もう一度たたんでしまう練習)を報告しましたので、今年は青山での実習の様子を。

まずは舞台に上って能舞台各所の説明。それから謡の練習。〈猩々〉の謡の最後(醒むると思へば…めでたけれ)を、いきなり無本、口移しで一人ずつ謡わされ、一番はじめに「はいやってみましょう」と言われた女子学生など、銕之丞先生の迫力(お優しいのですが迫力はスゴイ)に泣きそうな顔。でも、みなさん元気に謡っていました。




 
それからカマエとハコビ、サシコミ・ヒラキ、左右などの基本を少し。






能の所作の難しさを実感した後、銕之丞先生の〈序ノ舞〉と〈舞働〉を見せていただきます。贅沢!(残念ながらその部分の写真はありません)

そして装束の着付を体験し、素晴らしい能面のいくつかを見せていただきながらお話を聞いて、終わりました。
 着付けが済み、能面のどこを持つか、教わっています。
 
  

 こちらは鬼の着付けです。













毎回、銕之丞先生と、助手をつとめる安藤先生にお世話になり、このような貴重な経験をさせていただいています。
今年は少人数だったこともあり特に、銕之丞先生の様々な言葉が学生の胸にしみ入っている様子が伝わってきました。やはり、本物の迫力は、スゴイです。ありがとうございました。


 










60周年記念シンポジウムのスナップ

 
去る11月18日(日)、能楽研究所創立60周年記念シンポジウム「能の所作を考える―通底するもの・際だつもの―」が無事終了しました。おかげさまで、のべ180~190名ほどの方々にご参加いただき、大盛況でした。こういう催しは、まずはたくさんの方に聞いていただくことが大事だと思います。当日はいろいろと面白い能の会などもありましたが、午前中だけ、午後だけ、という形でこちらにもお運びくださったかたも多く、感謝・感激です。ありがとうございました。
各講師の皆様のお話も大変おもしろく、全体討議も盛り上がりました。登壇者のみなさま、また会場からご意見やご質問をくださったみなさま、そして、朝10時から夕方5時半までの長丁場をおつきあい下さったたくさんのみなさまに、心から御礼申し上げます。

当日のスナップを載せておきます。




 
 



以下は、昼休みのロビーの様子です。能コンポーザーの実演や、15日(木)のワークショップの内容を掲示したポスターセッションにも興味を示してくださる方が多くいらして、ほっとしました。(閑古鳥が鳴いていたらどうしようかと思っていました。)



 












 
木曜日のワークショップでは説明しきれなかった問題をポスターにしました。
 


そして最後はお祝いに頂いたお花です。


 
           

2012/11/16

能楽実験工房

昨日、青山の銕仙会の舞台で、江戸初期の型付を実験的に復元するというプロジェクトを行いました。



能研の山中所長ほか、若手メンバー(中司・江口・深澤・柳瀬)が中心となって数年読み進めてきた金春流の秋田城介型付に関する共同研究の成果報告で、能楽学会の例会とタイアップしての企画です。




江戸初期の型付に見える用語をどう解釈すればよいのか。演者(金春流の井上貴覚氏と観世流の馬野正基氏)と数回にわたって議論を交わした試行錯誤の経緯の説明があった後、実験的に復元した型を、現行の型と比較しつつ、実演でご覧いただきました。



その成果は明後日(18日)行われる能研六十周年記念イベントの「能の所作を考える」でも、ポスターセッションとしてみなさんにご紹介する予定です。

2012/11/13

福岡市博「能のかたち」展に行ってきました

先の土曜日、福岡市博物館で行われている「能のかたち」展に行ってきました。

能面・装束の名品、福岡藩黒田家と能との関わりを物語る資料を紹介する展示で、能楽研究所からも黒田家旧蔵の謡本やお抱え役者、梅津只円に関する資料などを出展いたしました。

展示では、井関・出目という二大世襲面打家の作品が一堂に会した能面コーナーがなんといっても見もの。

一般には馴染みが薄いのですが、大光坊作の面や井関親信・親政といった名工の作品を同時に鑑賞できるのは、能面好きにとって小躍りしたくなるようなことなのです。

というのも、これらの能面は北は東北地方から南は高知県まで各地に分散していて、同じ作者の作品を一か所で集中して見る機会がほとんどありません。よくぞ集めてくれました、と担当の学芸員に心の中で拍手喝采した次第。

この展示、こないだの日曜日で終わってしまいましたが、図録はまだ買えます。かなり分厚く、解説もなかなか力のこもった充実した一冊。
通信販売は十二月二十七日までだそうで(下記アドレスにアクセスしてください)、ご関心の向きはぜひ!
http://museum.city.fukuoka.jp/blog/news/1394/

2012/10/01

60周年記念シンポジウム「能の所作を考える」


 
 

11月のシンポジウムのお知らせです。入場無料。

どうぞふるってご参加ください。

 


創立60周年記念シンポジウム

能の所作を考える―通底するもの・際だつもの―


日本の伝統芸能である能や狂言の所作について、幅広い視野の中で考えてみようという企画です。近年能楽研究所で進めてきた能の所作や型付に関する研究の、中間成果報告でもあります。日本の伝統芸能や古武術等に通底する「日本的な所作」というものがあるのか、ないのか。あるとしたらそれはどんなものか。逆に、他の芸能や武術と能を区別し能を能たらしめている所作の特徴とはどんなものか。能楽の身体作法は日本人にしか合わないものなのか、それとも、広く民族や文化を越えて合理的に伝えていくことができるのか。そもそも、演じられては消えていくことが宿命の芸能の所作を、それぞれの特徴を失わず伝えていくということはどういうことなのか、等々。様々な分野から講師をお招きし、豊かな経験や最新の研究成果に裏打ちされたお話に耳を傾けるとともに、活発な議論を交わせる場ともなれば幸いです。


日時 1118日(日)10:0017:30

会場 法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー26階スカイホール

タイムテーブル    (総合司会 宮本圭造)

10:00-10:15  開会の挨拶・趣旨説明                      山中玲子

10:15-11:00 講演:狂言の「型」―表現法の本質に迫る―  
                     ヒーブル・オンジェイ

11:05-11:50 講演:身体運用の根幹を知る―背・大腿・股関節―   
                                        甲野善紀

11:50-13:10   (昼休み&ポスターセッション*)

13:10-13:40 研究報告:文理融合による能の所作研究  中司由起子

13:45-14:25 対談:能の所作と伝承 
                 観世銕之丞(聞き手:山中玲子)

14:25-15:05 対談:歌舞伎の所作・踊りの所作  
                   中村京蔵 (聞き手:児玉竜一)

15:05-15:15     ( 休憩 )

15:15-17:15 登壇者による討議と全体討議 

 
*ポスターセッション 「江戸初期能型付に基づく実験的復元」

11:50 13:00  スカイホール前ロビーにて
                  江口文恵(能楽研究所兼任所員)
                  柳瀬千穂(法政大学大学院生)
                  深澤希望(法政大学大学院生)

 

【登壇者紹介】

Hýbl Ondřej ヒーブル・オンジェイ(茂山千五郎家狂言研修生、なごみ狂言会チェコメンバー)

1977年チェコ共和国生まれ。大阪大学大学院博士課程修了。大蔵流狂言師 茂山七五三に師事。狂言台本のチェコ語訳、英語訳を行い、自ら設立した狂言専門のプロ劇団「なごみ狂言会チェコ」の総合プロデューサー、役者として、ヨーロッパ各国で定期的にチェコ語による狂言を上演。主な論文に「国際化する狂言-狂言台本翻訳の歴史を巡って」。

◆甲野善紀(武術研究者) 1949年東京生まれ。20代の初めに「人間にとっての自然とは何か」を探求するため武の道に入り、78年に「松聲館道場」を設立。他流儀や異分野との交流、古伝書の解読など独自の武術研究を通して、剣術、抜刀術、体術、杖術などを探求する。2000年頃からその技と術理がスポーツに応用されて成果を挙げ、さらに楽器演奏や介護、ロボット工学や教育などの世界から関心を持たれ、2007年から3年間、神戸女学院大学の客員教授も務めた。著書に『剣の精神誌』『武道から武術へ』『自分の頭と身体で考える』(共著:養老孟司)など多数。

◆中司由起子(法政大学能楽研究所兼任所員)1972年山口県生まれ。法政大学大学院博士課程満期退学。法政大学・フェリス女学院大学非常勤講師。専門は能・狂言。主な論文に、「型付における「回ル」―能楽型付の記述ルールの研究(2)」「国立能楽堂蔵「狂言台本・間本ほか能狂言関係書」目録」など。

◆観世銕之丞(能楽シテ方観世流) 1956年東京生まれ。本名は観世暁夫。八世観世銕之丞の長男。伯父観世寿夫および父に師事。19604歳で初舞台。64年『岩船』で初シテを勤める。2002年に九世観世銕之丞を襲名。2011年、紫綬褒章を受賞。公益社団法人銕仙会理事長。公益社団法人能楽協会副理事長。著書に『能のちから 生と死を見つめる祈りの芸能』(青草書房)。京都造形芸術大学評議員、都立国際高校非常勤講師、法政大学デザイン工学部客員教授。

◆中村京蔵(歌舞伎俳優) 1955年生まれ。本名は両川宗男。屋号は京屋。79年法政大学第二文学部日本文学科卒業。80年国立劇場歌舞伎俳優養成所第6期生となり、82年修了後、中村雀右衛門に入門、中村京蔵を名のる。94年名題昇進。2005年伝統歌舞伎保存会会員に認定。99年歌舞伎座賞。2002年・08年に国立劇場奨励賞。2007年日本俳優協会賞、芸術祭舞踊部門新人賞。千葉大学、多摩美術大学等で非常勤講師。海外歌舞伎レクチャー公演の出演も多数。

◇児玉竜一(早稲田大学文学学術院教授)1967年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院博士課程満期退学。専門は歌舞伎研究。編著に『能楽・文楽・歌舞伎』(教育芸術社)、『古典芸能のなかの映画』(森話社)など。『演劇界』、朝日新聞等に歌舞伎評を執筆。

◇山中玲子(法政大学能楽研究所教授) 1957年東京生まれ。東京大学大学院博士課程満期退学。博士。専門は能・狂言。特に能の作品研究・演出研究。著書に『能の演出 その形成と変容』(若草書房)、『能を面白く見せる工夫 小書演出の歴史と諸相』(共著、檜書店)他。

◇宮本圭造(法政大学能楽研究所准教授)1971年大阪生まれ。大阪大学大学院博士課程修了。博士。専門は能楽史。著書に『上方能楽史の研究』(和泉書院)。 


 

2012/09/20

世阿弥忌セミナー

少し前のことになってしまいましたが、八月に行われた世阿弥忌セミナーについてのご報告です。

八月八日は世阿弥の忌日にあたるため、毎年その日に合わせて奈良で世阿弥忌セミナーという能楽学会の催しが行われています。

今年は『世子六十以後申楽談儀』をテーマに、研究発表四本と対談があり、能研の山中さんも対談の聞き手として登壇しました。

その対談、「能役者と『申楽談儀』」というタイトルで、観世銕之丞氏が『申楽談儀』に出てくる様々な曲の演じ方についての記事を取り上げ、演者ならではの解釈を披露するという、興味深いものでした。

『申楽談儀』には、節訛りや節扱いに関して、個々の曲に則した実に具体的な記事が多くみられます。けれども、研究者にはなかなか手に負えないこともあって、これまで十分に検討されていません。今回の企画は、『申楽談儀』を読むうえで、そうした演者と研究者との共同研究が不可欠であることを明らかにした点でも有意義だったと思います。欲を言えば、対談形式ではなく、少人数による輪読形式の方が議論が深められたかな、という感もありますが、それは今回の催しではないものねだりというもの。でも、いつか能研でそのような場を提供できればとひそかに考えた次第です。

2012/09/14

着々準備中


以前にも少しお知らせしましたが、今年の秋、11月には、能の所作を考えるワークショップとシンポジウムを行います。

★ワークショップ「江戸初期型付に基づく実験的復元」

11月15日(木) 午後6時~午後8時30分   青山の銕仙会能楽研修所 
 
  タイトル通り、江戸時代初期の金春流型付を元にして、〈田村〉〈千手〉〈自然居士〉〈山姥〉の当時の舞(クセ・キリなど一部)を実際に復元し、能楽師の方に舞っていただくというものです。古型付には独特の用語や記述法があります。我々は2年間にわたって毎月研究会を開き、当時の舞がどのようなもので、それをどういうルールで記述しているのかを追究してきました。まだ判らないこともたくさんあるのですが、今回はできるだけの資料を揃えたうえで、このような研究に理解のある、演者の協力を仰ぎ、資料から読み取れる動きを舞台上で実際に演じて頂きます。
 
  どうしても資料通りでは動けないところもあるかもしれません。その場合は、どうして動けないのか、演者の方の説明を聞き、考えます。掲載した写真は、こちらで揃えた資料をもとに、演者と担当者が侃々諤々の議論をしているところです。3時間半も続いていました!
  
 
 近日中に、詳しいお知らせをアップします。平日の夜の開催ですが、場所は青山(表参道駅徒歩3~4分)の銕仙会舞台。参加費は無料です。是非是非お誘い合わせのうえ、お越しください。


★シンポジウム「能の所作を考える―通底するもの・際だつもの」

11月18日(日) 午前10時~午後5時30分  法政大学市ヶ谷キャンパス

  こちらは能楽研究所創立60周年記念行事の一つ。近年能楽研究所で進めてきた、文理融合による能の所作研究の目標や成果をお伝えしつつ、日本の伝統芸能である能や狂言の所作について、幅広い視野の中で考えてみようという企画です。古武術の研究家、歌舞伎役者、能役者、本格的な修行を経てヨーロッパで狂言を演ずる外国人、いろいろな立場、視点から語って頂きます。登壇者全員の討議や、会場にお越しのみなさんとの全体討議の時間もあります。
  こちらも入場無料。市ヶ谷キャンパスで一番高いビル、ボアソナードタワーの26階スカイホールが会場です。現在、ポスターやチラシの制作中。チラシができあがり次第、詳しい情報をアップします。どうぞふるってご参加ください。


 
 

2012/09/07

表章先生三回忌

昨日(9月6日)は、本学名誉教授、表章先生の三回忌でした。
表先生は創立以来、長年にわたって能楽研究所の発展に尽力され、御退職後も、われわれの活動を様々な形でサポートしていただいた大恩人です。
表先生がお亡くなりになる前日までお使いになっていた机は、今もそのままにしていますが、三回忌にあたる昨日は、その机の上に表先生のご遺影を飾り、先日刊行された『能楽研究』の表先生追悼号をお供えして、所員の皆でしばし表先生を偲びました。

その表先生が2008年に法政大学でなさった「能楽研究の百年」と題する講義を収録したDVDが近く能楽研究所から発行されます。これはすでにyoutubeでも閲覧ができるようになっていますが(能楽研究所のホームページの下にバナーが出ています)、能楽研究所創立六十周年の記念プレスとして限定発売する予定です。出来上がりましたら、また告知させていただきます。

表先生がお亡くなりになってから早くも二年が経ちますが、研究所でこの映像を見ていると、今でも机の向こうで先生がお仕事に励んでいらっしゃるような錯覚を覚えるから不思議です。

2012/07/30

国立能楽堂公開講座のご案内

暑い日がつづいていますが、皆さん無事お過ごしでしょうか。

さて、来る8月24日(金)午後4時より、国立能楽堂公開講座でわたくし小秋元が、「『義経記』と室町時代の義経伝承」と題する話をいたします。今日でこそ、『義経記』はそこそこ知られた古典といえますが、室町期には読まれた形跡があまり見られません。この作品は近世初頭、出版文化の開花とともに流布するようになったと考えられます。室町時代の義経伝承を考える際には、まずこのことを念頭に置く必要があると感じています。そんなことを起点に2時間、お話をする予定です。

応募方法等については、国立能楽堂のサイトをご覧ください。
http://www.ntj.jac.go.jp/assets/files/nou/pdf/20120529_chair_schedule.pdf

2012/07/19

プリンストンからの贈り物

今日の午後の山中ゼミは、いつもと趣向を変えて、アメリカのプリンストン大学から能研に短期留学中のパトリック・シュウェマーさんによる研究発表が行われました。

プリンストン大に所蔵されている新出の舞曲絵巻「相模川」を紹介して、その描写の特徴や製作背景を考察するという内容で、詞書の筆者が朝倉重賢であること、画風から十七世紀後期の作と考えられること、「相模川」を絵巻化した作例としては現存唯一のものであることなど、スライドショーを効果的に使って手際よく、ご報告いただきました。

聴講の学生も興味津々。今回は、文学部の小秋元・伊海両先生のほか、慶應義塾大の石川透先生にも特別においでいただきました。

シュウェマーさんのお話しは「相模川」絵巻にとどまらず、ポルトガルの宣教師が十六世紀末に書いた和訳聖人伝の文体が舞曲調であることなど、広く舞曲の文芸的展開を視野に入れたもので、今後の展望が大きく期待される内容でしのたで、聴講の学生も大いに刺激を受けたようです。
また、シュウェマーさんにとっても、奈良絵巻の第一人者である石川先生から直接アドバイスを受けるいい機会になり、研究発表が終わった後も、しばらく絵巻談義で盛り上がっていました。

シュウェマーさんは九月まで能研の客員研究員として滞在の予定です。これを機に、シュウェマーさんの研究がますます発展することになれば、能研のスタッフとして、こんなにうれしいことはありません。

今年も「法政学」!

少しアップが遅くなってしまいましたが、6月の末、今年度も学部学生対象の授業「法政学への招待」に参加いたしました。大原社会問題研究所、沖縄文化研究所、能楽研究所、の3研究所がどのような経緯で大学内に作られ、どのような活動をしているか、それぞれ持ち時間20分あまりで説明する、というものです。写真は、能研の歴史と、それから宝物の一つ『二曲三体人形図』がどんな紙にどのように描かれているかを説明しているところです(もちろん、本物を振り回しているわけではありません)。

今回は、能研の活動の一部(前回ご紹介した表先生の特別講義や、毎年秋に行っている能楽セミナー)をポッドキャスティングの形で公開している、という点に感動してくれた学生さんがいて、アンケートにも「ポッドキャスティングなんてやってるんですね。さすが能研!」なんて書いてくださって、嬉しかったです。文学の研究者たちは一般的にこういう活動には冷淡なので、ときどきむなしい気持ちになりますが、若い人たちに喜んでもらえると、「やって良かったな」と思います。

今のところ、能楽セミナーや表章教授特別講義は、itunes ストア の ほか、法政のITセンターの
サイトからもダウンロードできます。表先生の特別講義は、前回のお知らせ通り、you-tube でも見られます。 どうぞ、ご覧になってみてください。

授業のときにも言いましたが、能研はこれからもっともっと、学部の学生さんたちとのつながりを作っていきたいと考えています。法政の卒業生が社会に出て、何かのときに「能? 特に詳しく勉強したわけじゃありませんが、法政にいましたから、まぁ、能のことは知ってますよ」なんて、つぶやいてくれたら、最高です。

2012/07/12

「表章氏能楽特別講義」が視聴できます

能楽研究所元所長、法政大学名誉教授の故表章先生(1927~2010)が、2008年の2月~3月にかけ3回にわたって、能楽論研究・能楽史研究・作品研究の研究史を語る特別講義をなさいました。その様子が、youtube で視聴できるようになりましたので、お知らせします。
能楽研究所では法政大学情報技術(IT)研究センターと協力し、この講義の録画にキャプションや資料の画像挿入等の編集作業をおこないました。同センターのウエブサイトやiTunesのコンテンツサイトからも同じものが視聴できましたが、今回、youtubeからも簡単に見られるようになりましたので、お知らせします。

 なお、各巻の編集作業は、 

 第1巻(能楽論研究)伊海孝充・高橋悠介
 第2巻(能楽史研究)江口文恵
 第3巻(作品研究)中司由起子

の各所員が、中心になっておこないました。


 
 
 

2012/07/08

神奈川県立金沢文庫で解脱上人貞慶展、開催中

神奈川県立金沢文庫で、「御遠忌800年記念特別展 解脱上人貞慶―鎌倉仏教の本流―」が開催されています。

貞慶は鎌倉時代前期に奈良で活躍した学僧で、興福寺において法相の学を修め、春日明神や釈迦、弥勒への信仰を深めました。一般にはあまりなじみがありませんが、まさに「鎌倉仏教の本流」と呼ぶにふさわしい人物といえるでしょう。そうした貞慶の学問と信仰を知る素晴らしい展示です。

なお、本展示は、4~5月に奈良国立博物館で開かれた特別展を引き継ぐもので、出品された資料は多く重なります。奈良へ行けなかったあなた、ぜひ金沢文庫へ。


→もうここを、地井さんが散歩することはないのだなぁ(/_;)

2012/06/10

法政大学国文学会が開催されます

2012年度法政大学国文学会が開催されます。今回は、本学大学院博士後期課程の深澤希望さんの発表「能〈鐘巻〉から〈道成寺〉へ」があります。日時・会場は以下のとおりです。
■日 時    2012年 7月 14日(土) 13時より受付開始
■会 場   法政大学ボアソナードタワー26階 スカイホール

その他の発表・講演等に関する詳細は、日本文学科サイトをご覧ください。
http://nichibun.ws.hosei.ac.jp/wp/

2012/06/09

『国立能楽堂調査研究』第6号をいただきました。

昨日、『国立能楽堂調査研究』第6号を賜りました。本号には、西野春雄法政大学名誉教授の「新出資料『古狂言後素帖』について」が掲載されています。単なる資料紹介にとどまらず、現存する狂言古画を広く視野に収めた論考とお見受けしました。さきの能楽学会大会では能・狂言の絵画資料に関するシンポジウムが開かれましたので、まさに時宜に適った一篇です。

2012/05/14

シンポジウム開催報告

昨日、能楽学会との共催により、「能・狂言の絵画資料」と題するシンポジウムを行いました。



目下展観中の「能・狂言を描く」展に合わせての企画で、宮本の趣旨説明と展示解説に続いて、能研兼担所員の小林健二さんによる基調講演、室町風俗画や絵巻研究の権威でいらっしゃる泉万里さん、東京国立博物館の小山弓弦葉さん、聖母女学院短期大学の藤岡道子さんによる講演の後、講演者とフロアの参加者によるシンポジウムという、盛りだくさんな内容でした。参加者も百十人を超え、大盛況。いつもは静かな特別展の会場も、昨日は人でごったがえしていました。

2012/05/11

「能・狂言を描く」展開催中


今日から「能・狂言を描く」展がオープンしました。

能研の創立六十周年を記念するイベントの第一弾です。

今回は「絵画化された能楽の世界」をテーマに、ビジュアルに富んだ資料の数々を展示しております。


「能楽双六」。中央の「猩々」が「上り」


明治期の錦絵。彩色が実に鮮やかです。














キャプションの印刷・貼り付けもすべて所員の手作りで、ぎりぎりまで準備に追われましたが、なんとかオープンに漕ぎつけることができました。
展示室はこじんまりしていますが、入場無料ですので、お気軽にお出でください。
五月二十四日まで、日曜日を除く毎日、午前十時から午後十八時まで開館しています。

展示の構成は大体次の通りです。

【Ⅰ】能・狂言のピクトグラム
能楽双六、高崇谷筆狂言「節分」図

【Ⅱ】芸を伝えるための絵画
二曲三体人形図、八帖本花伝書ほか

【Ⅲ】役者の面影を記憶する
宮増弥左衛門画像、森田庄兵衛光広画像ほか

【Ⅳ】能・狂言の舞台を描く
能絵鑑、能楽図絵、英一蝶原画狂言図巻、能楽百番ほか

【Ⅴ】能の興行を記録する
大野勧進能画巻、弘化勧進能絵巻、町人御能拝見之図ほか

【Ⅵ】能の物語を描く
熊野絵巻(個人蔵のをお借りしました)、伝松平伊豆守旧蔵謡本、紙芝居「接待」ほか

能画の粉本の数々


2012/04/28

創立60周年記念展示

以前にもお知らせしましたとおり、今年は能楽研究所の創立60周年にあたります。記念行事の第一弾として、5月11日から、研究所収蔵資料の記念展示会を開催します。

入場無料・ご来場歓迎です。


場所は、市ヶ谷キャンパス、ボアソナードタワー14階 博物館展示室。

日曜日は休館ですが、13日の11:30~13:00 は、関連シンポジウムのために、臨時開館いたします。他の日の開館時間は、10:00~18:00 です。 



2012/03/14

解脱上人貞慶

今、本務先の金沢文庫では、解脱上人貞慶(じょうけい、1155-1213)という、鎌倉時代はじめに南都で活躍したお坊さんをテーマにした展覧会の準備をしています。奈良国立博物館・読売新聞社との共催で、貞慶の八百年遠忌にあわせた展覧会です。
貞慶は、平治の乱で敗死した信西(藤原通憲)の孫にあたり、興福寺、そして後に笠置寺や海住山寺で活躍しました。戒律復興につとめ、復興期の南都において多くの勧進状や願文、講式などを制作しており、その関係資料が金沢文庫にも残っています。

一般にはそこまでなじみのない僧かもしれませんが、実は貞慶の著作や思想は、能とも深く関係しています。例えば、〈歌占〉のクセ。

「須臾に生滅し、刹那に離散す、
恨めしきかなや、釈迦大士の慇懃(おんごん)の教を忘れ、
悲しきかなや、閻魔法王の呵責(かせき)の言葉を聞く・・・」

と対句で始まる、あの格調高くも濃厚な文章、
実は貞慶が興福寺を去り、笠置に隠遁した際に、興福寺の師匠に宛てて書いたものが、後に「無常詞」などと呼ばれて流通しており、その一部を転用したものです。
また、〈舎利〉のクセの

「常在霊山の秋の空・・・」
「孤山の松の間にはよそよそ白毫の秋の月を礼すとか・・・」

といった詞章も、おおもとは貞慶の五段式『舎利講式』の一部で、廃曲〈敷地物狂〉にも同文が引用されています。ちなみに、貞慶が『舎利講式』を制作したのは、建仁三年(1203)に唐招提寺で釈迦念仏会を始めたことと関わっているとされます。この釈迦念仏は、唐招提寺長老となる證玄の弟子であった導御の母子再会譚である能〈百万〉にも、「南無釈迦牟尼仏」の響きとなってあらわれています。

貞慶は春日大明神への信仰が篤く、その霊験の話を書物にまとめました。明恵上人をワキとする能〈春日龍神〉には、春日大明神が「上人をば太郎と名づけ、笠置の解脱上人(貞慶)をば次郎と頼み」擁護したとあります。〈春日龍神〉や〈采女〉に描かれる、春日社頭を釈迦の浄土とみなすような観念も、実は、もともと貞慶が称揚したものです。
それに、貞慶自身がワキとして登場し、伊勢に参宮すると第六天魔王があらわれる能〈第六天〉
・・・こうしてみると、能と貞慶との関わりは、なかなか奥深いことがわかります。

この特別展は、貞慶だけに焦点を当てた初めての展覧会です。二会場で開かれ、奈良国立博物館での展示後、規模を変えて金沢文庫でも開催する予定です。まだ少し先ですが、この機会にぜひご覧になって、能の背景にも関わる南都仏教の世界に思いを馳せていただけたら、と思います。

■御遠忌800年記念特別展 「解脱上人貞慶 ―鎌倉仏教の本流―」
会期
奈良国立博物館:   4月7日(土)~5月27日(日)
http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2012toku/jokei/jokei_index.html#
神奈川県立金沢文庫: 6月8日(金)~7月29日(日)

正月七日の翁舞

先日、二月に鹿児島に行ってきたことをご報告しましたが、実はその前の月にも鹿児島に行っておりました。



正月七日に鹿児島神宮で行われる翁舞を見るためで、以前から見に行きたいと思いながら、遠方ゆえになかなか機会がなく、今回ようやく実現したという次第です。



これは一種の鬼追いの儀式で、神主さんたちが社殿の中で「エーイ」と豆をまいて鬼を払った後、びんざさらを持った神主が翁舞の演者の周囲を三回まわり、その後、翁舞の演者が立ち上がって、足拍子を三回踏みつつ短い唱えごとをします。



翁舞そのものは、なんと一分足らずで終わります。五時間近くかけてやってきて、わずか一分とはなんとも非効率な話ですが、研究なんてまあそういうもの。効率を気にしたらやっていられません。


そこまでして、見に行きたかったのは、この翁舞が実に興味深い伝承を伝えているからです。

古い翁舞と共通する文句が詞章に含まれることもさりながら、鹿児島神宮所属の隼人職という芸能者によって演じられるというのが何よりも興味深いところ。


隼人職はこの地域の祈祷師的存在で、同時に鹿児島神宮で様々な芸能を奉仕してきました。その代表的なものが、「隼人舞」と呼ばれる四方固めの舞と、この翁舞なのですが、四方固めの舞と翁舞をともに伝承している点に、翁舞のルーツを考える大きなヒントが潜んでいるようなのです。そのあたりのことは、法政大学の紀要『日本文学誌要』所載の拙稿「「呪師走り」と〈翁〉」をご参照ください。写真でもお分かりのように、翁舞の演者が、鳥兜のような頭巾をかぶっていることも注目されます。



ところで、隼人職はもと四軒あったそうですが、現在は一軒のみ。その一軒のご当主も体調を崩されているとかで、今回、事前に問い合わせたところ、隼人職の方に代わって神主が翁舞をつとめることになるかもしれない、とのことでした。幸い、当日は隼人職の方の体調が回復され、ご本人が翁舞をなさいましたが、後継者がいないため、いずれその伝承は途絶えてしまうかもしれません。能研はこれまでこうした地方の芸能伝承にはほとんどタッチしてきませんでしたが、今後、何らかの形で民俗芸能の記録保存にも取り組む必要性があるのでは、と痛感した次第です。

2012/03/13

春の鹿児島


二月下旬、鹿児島の指宿に行ってきました。


まだ二月だというのに、いたるところに梅が咲いて、すっかり春の陽気。その一週間前には、豪雪の福井にいたために、余計、春の日差しがまぶしく感じられました。指宿といえば砂蒸し温泉。あるいは気温のみならず、地熱の暖かも加わっているのかもしれません。指宿からちょっと行ったところには「地熱発電所」もありました。


さて今回の目的は揖宿(いぶすき)神社の仮面調査。


揖宿神社は薩摩一宮枚聞神社の分社で、十数面の仮面が所蔵されています。

戦前まで神舞という神楽系の芸能に使われていた仮面で、その中には、古い能面が転用されているものもいくつか含まれていて、能面の歴史を考えるうえでも興味深いものです。


うち、三面は室町後期の古面として鹿児島県指定文化財に指定されていますが、今回調査をしてみると、他の面もそれとさほど時代が隔たらない古面であることが判明しました。



ただ、惜しむらくは、保存があまりよくないこと。彫刻刀で仮面の裏面を幾筋にも削り取ったような跡が多数みられました。

宮司さん曰く、「シロアリが食べた跡です」。

中には、よくまあこれほど食べつくしたなあ、と思えるほど、シロアリに見事に浸食されたものもありました。




ところが、中には同じような面でも、まったく無傷のものもあります。なんとも不思議に思われましたが、これは楠で作られたものだそうで、樟脳と同じように、木そのものに虫よけの効果があったらしいとのことです。



写真は県指定の三面と、開聞岳を望むJR日本最南端の駅。

2012/03/09

能楽鑑賞会事前講座


 わたしの本務校の附属中学校では、2年次には歌舞伎の3年次には能・狂言の鑑賞会が開催され、国語科に能のお好きな先生がいらっしゃったこともあって、ここ数年、事前講座と銘打って1時間ほど能の入門的なことと鑑賞予定の作品の見どころなど好き勝手にお話しています。先月もその講座があり(曲は「葵上」)、iPad2で華麗にプレゼンする気満々で、かなり気合いを入れてパワーポイントの資料を作っていったのに、会場備え付けのケーブル接続端子の不具合でスクリーンがいきなり暗くなり、用務員さんが替えのケーブルを持ってすっ飛んでくるという非常事態に(笑)。そんなトラブルで些か気勢を削がれましたが、気を取り直して、泥眼の写真を三枚並べて「この三人(?)の中で一番プライドが高そうな人は?」「じゃあ、一番嫉妬深そうな人は?」と生徒達に手を挙げさせたり、また好き勝手やって帰ってきました。

 そして先日、そのときの感想が6クラス分届きました。「土曜日にわざわざ能楽堂に行くなんてイヤだと思っていましたが(←素直でよろしい)、先生のお話を伺って楽しみになりました」的なお行儀の良いコメントがちらほら(笑)。書かれている内容で多かったものは、

1:いきなり「眠くなったら寝ても構わない」といわれたのでびっくりしたが、それでちょっと気が楽になった。
2:「能はぼーっと見ていたら退屈かも知れないけれど、妄想力をはたらかせて見るといろいろな発見がある」という先生の言葉が印象的だった。言葉がわからなくてもあれこれ妄想しながら見ればいいのだと安心した。
3:「五人囃子」が能と関係があることがわかってよかった。
4:同じ泥眼の面でもずいぶん表情が違い、演じたいイメージによって使い分けるのが面白い。
5:般若が女の鬼で、怒りや恨みだけではなく、悲しみの気持ちを秘めていることを初めて知った。

などなど。中にひとり「幽霊の"うらめしや"のルーツが能だとわかって面白かった」と書いてきた子がいて、えっ、そんな話をした覚えはないけど?と一瞬思ったのですが、よく考えたら「枕之段」の映像を見せたのでした。「わらはは蓬生のもとあらざりし身となりて。葉末の露と消えもせば。それさえ殊に恨めしや」・・・そうくるか(笑)。


 でもまあ、その子なりに関心を持ってもらえたようで何よりでした。願わくは、あと4年後にわたしの能の授業を取って能の豊かな世界に触れてくれる学生が少しでもいてくれるといいのですが。

2012/03/08

「お水取り」の穴場

友人の案内で、東大寺の修二会(しゅにえ)へ行ってきました。修二会は「お水取り」の名で知られ、3月12日の「籠松明(かごたいまつ)上堂」の儀式が呼び物ですが、実際には3月1日から14日にかけて、毎日、練行衆と呼ばれる僧侶たちが、「六時の行法」を規則正しく行う、厳粛でハードな法要です。

3月12日の籠松明上堂の日には入場制限ができるほどの人混みだそうですが、それ以外の日にもお松明の上堂は行われます。毎日夜7時に、10本の松明が登り廊を登り、舞台を赤く照らします(14日は6時半)。添付した動画は3月6日に撮影したものです。

このほか、毎日深夜に行われる「神名帳読み上げ」や、5日と12日の深夜に行われる「過去帳読み上げ」などを聴聞するのもよいでしょう。練行衆が美声で、独特のフシをもって神名帳や過去帳を読み上げます。一般の人々も堂内の局(つぼね)で聴聞することができます。暗くて寒い堂内で、神秘的な体験ができますよ。でも、聖武天皇や源頼朝らの名前に混じって、藤山寛美の名も読み上げられたのはちょっと面白かった。

京都で狂言

3月3日、ひな祭りに京都に行きました。茂山さんの狂言会を観るのが目的の一つ。双子の茂山竜正さん・虎真さんがそれぞれ2日・3日に「靫猿」の猿を勤められたのです。3日は虎真さんのお猿でした。その昔、ネスカフェゴールドブレンドのCMで「狂言の修業は猿に始まり狐に終わる」と紹介された、あれです(古いかな…)。
3日の京都はポカポカと春らしい気持ちよい一日。会場の金剛能楽堂に行く前に、「虎屋」(羊羹の虎屋です、赤坂に本店がある。京都の人は、「虎屋さんは天皇といっしょに東京に行った」と言います。もともと京都のお店です)に寄って、東京で売っているのと同じだとは思いつつも、やっぱり、おひな様の羊羹を買ってしまいました。
ま、それはともかく。やはり、同じ狂言の会でも、京都と東京では雰囲気が違います。ロビーにはこんなかわいい風船と一緒に、お祝いのお花が飾られていました。
開演前には、熨斗目と袴姿の小さな虎真さんが、そろそろと舞台に出てきてちょっと練習をしていたりして…。うん、こういうのも良いな、イイナと思いながら、午後をゆったり楽しみました。
GW頃には、ビデオ・写真撮り放題の狂言会を東京でもなさるようです。
http://www.soja.gr.jp/schedule/item.php?id=3096
教材用に撮りに行かせてもらおうかな、と思っています。

2012/01/15

特別展「平清盛」@江戸東京博物館


またもや展覧会のレポートです(笑)。
大相撲初場所をよそに、江戸東京博物館で開催中のNHK大河ドラマ50年特別展「平清盛」を見てきました。

先週から始まった大河ドラマ「平清盛」とのタイアップ企画のようですが、ドラマの話はとりあえず措いておくことにして(笑)。1164年(長寛2年)9月に平清盛が一族の繁栄を願って厳島神社に奉納した『平家納経』33巻(国宝・厳島神社蔵)のうち、清盛の願文と信解品第四・法師功徳品第十九・陀羅尼品第二十六が出ています。2005年の厳島神社国宝展@東京藝術大学美術館でこれを見たときは、とにかく人が多かったという印象しかないのですが、今回はかなりじっくり(もちろん至近距離で)眺めることができました。『平家納経』はこの時代に流行した装飾経で、一部の見返し絵には葦などが生える水辺の景に岩や水鳥など文字をしのばせる「芦手絵」の手法が用いられていることが知られていますが、今回の展示ではそれもしっかり確認することができました。もう大満足。清盛の願文は全て翻刻されており、ありがたいことに現代語訳も付いていて(充実のキャプション!)、全文通して読むとこれが結構胸打たれる内容です。

メインは多分この『平家納経』ではないかと思いますが、平宗盛の消息、伝平重衡所用の七絃琴、平重衡像、平敦盛像、高倉天皇像、小督局像、安徳天皇像そして源頼政像など、能にゆかりの人々にちなんだ出展もいろいろ。西行像や西行消息も出ています。『平家物語絵扇面散らし屏風』も見事。個人的には〈生田敦盛〉とも関係がある『小敦盛絵巻』を楽しみにしていたのですが、展示されていたのは前半の熊谷が敦盛の首を討とうとしている場面で、わたしの期待していた敦盛と若君の再会シーンではありませんでした。それだけがちょっと残念(笑)。でも、本当に見どころ満載の展示でした!図録は言うに及ばず、平家納経の絵はがきやら一筆箋やらあれこれ大人買いしてしまって、ちょっと大変なことになりましたけど・・・。

2012/01/10

能面と能装束―神と幽玄のかたち―




年が明けてあっと言う間に十日も経ってしまいましたが、三連休最後の昨日、三井記念美術館で開催中の「三井家伝来 能面と能装束―神と幽玄のかたち―」をようやく見に行くことができました。平成20年度に国の重要文化財として一括指定された旧金剛宗家伝来能面54面をはじめ、面打師の橋岡一路氏からこの度寄贈されることとなった能面8面に謡本(元和卯月本)を加え、楽器や能装束も展示されている、非常に贅沢な展示です。

展示室は

・囃子の楽器と謡本(能管・鼓胴、元和卯月本、光悦謡本、能絵歌留多)
・面箱
・茶道具の取り合わせ(茶室の設えをそのまま再現)
・神々のかたち(翁面、尉面、鬼神面)
・幽玄のかたち(男面、女面)
・橋岡一路氏新寄贈品
・能装束(辰年にちなんで龍文様の装束が幾つか。同じく龍つながりで?〈道成寺〉の装束も。あ、でもこれは龍じゃなくて蛇か)

というテーマで陳列されており、比較的ゆったりと見ることができるようになっています。三井家の能面は新井薬師の三井文庫時代にも見に行ったことがありますし、こちらの美術館でも開館記念特別展などでお目に掛かってはいるのですが、それでもやはり龍右衛門作の「花の小面」(私は親しみを込めて「花ちゃん」と呼んでいます)や「孫次郎」(同様に「オモカゲさん」)を見ると、久しぶりに顔なじみに会ったような懐かしさを覚えるのです。彼女らが舞台に立ったところを見てみたいなあ、どんな曲が似合うかなあ・・・などと妄想するのもまた楽し(笑)。

会期は今月28日までです。花ちゃんとオモカゲさん以外にもバラエティ豊かな能面たちがお出迎えしてくれます。お気に入りの面を探しに足を運んでみてはいかがでしょう。併設のミュージアムショップも楽しいし、カフェのケーキも美味しいですよ!

2012/01/01

謹賀新年

新年明けましておめでとうございます。
昨年は、東日本大震災、台風の災害など、悲しいできごとの多い年でした。「天下泰平国土安穏、今日のご祈祷なり」という翁の文句がこれほど胸に響いたことはありませんでした。
新しい年は、少しでも前に進んでいけるよう、幸多い一年になりますよう、祈りたいと思います。
皆様にとっても、素晴らしい一年になりますように。

今年は能楽研究所の創立60周年に当たります。春・秋の展示、シンポジウムなど、さまざまな記念行事を計画していますし、また、長らく刊行が途絶えていた鴻山文庫の資料解題も、なんとか刊行したいと思っています。今年も、能楽研究所をどうぞよろしくお願いいたします。