先日、二月に鹿児島に行ってきたことをご報告しましたが、実はその前の月にも鹿児島に行っておりました。
正月七日に鹿児島神宮で行われる翁舞を見るためで、以前から見に行きたいと思いながら、遠方ゆえになかなか機会がなく、今回ようやく実現したという次第です。
これは一種の鬼追いの儀式で、神主さんたちが社殿の中で「エーイ」と豆をまいて鬼を払った後、びんざさらを持った神主が翁舞の演者の周囲を三回まわり、その後、翁舞の演者が立ち上がって、足拍子を三回踏みつつ短い唱えごとをします。
翁舞そのものは、なんと一分足らずで終わります。五時間近くかけてやってきて、わずか一分とはなんとも非効率な話ですが、研究なんてまあそういうもの。効率を気にしたらやっていられません。
そこまでして、見に行きたかったのは、この翁舞が実に興味深い伝承を伝えているからです。
古い翁舞と共通する文句が詞章に含まれることもさりながら、鹿児島神宮所属の隼人職という芸能者によって演じられるというのが何よりも興味深いところ。
隼人職はこの地域の祈祷師的存在で、同時に鹿児島神宮で様々な芸能を奉仕してきました。その代表的なものが、「隼人舞」と呼ばれる四方固めの舞と、この翁舞なのですが、四方固めの舞と翁舞をともに伝承している点に、翁舞のルーツを考える大きなヒントが潜んでいるようなのです。そのあたりのことは、法政大学の紀要『日本文学誌要』所載の拙稿「「呪師走り」と〈翁〉」をご参照ください。写真でもお分かりのように、翁舞の演者が、鳥兜のような頭巾をかぶっていることも注目されます。
ところで、隼人職はもと四軒あったそうですが、現在は一軒のみ。その一軒のご当主も体調を崩されているとかで、今回、事前に問い合わせたところ、隼人職の方に代わって神主が翁舞をつとめることになるかもしれない、とのことでした。幸い、当日は隼人職の方の体調が回復され、ご本人が翁舞をなさいましたが、後継者がいないため、いずれその伝承は途絶えてしまうかもしれません。能研はこれまでこうした地方の芸能伝承にはほとんどタッチしてきませんでしたが、今後、何らかの形で民俗芸能の記録保存にも取り組む必要性があるのでは、と痛感した次第です。