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2011/12/12

現代能楽論/身体表現論

 能楽研究所では大学院人文科学研究科日本文学専攻と協同で、能楽研究者育成プログラムをおこなっています。能楽の研究をめざす人はもとより、資料の保存や能楽の普及に携わる人材、能楽の魅力を広く世界に発信してくれる人材を育てるのが目標です。
 「現代能楽論」はこのプログラムの目玉科目の一つです。第一線で活躍中の能楽師や評論家とともに、現代に生きる能楽の諸相や課題を知ろうという目的で始めたものですが、数年前から、理系の大学院であるシステムデザイン工学科の学生も「身体表現論」という別の名前の科目として、受講できるようになりました。
 後期だけ、2単位の科目ですが、途中に2回、能楽堂での実習があるのが特徴です。きょうは2度目の実習で、神楽坂の上にある、矢来能楽堂に出かけました。
 足袋に履き替え、9時半集合。遅刻もありません(すごい!)。謡の稽古、能舞台の説明等のあと、実際に能舞台に上がって、カマエやハコビ(すり足での歩行)、基本的な所作を習います。

初めはガチガチに固まっていた身体も先生の的確なアドバイスで徐々に能らしくなってはいくのですが、でも、なかなかむずかしいようです。

これは「シオリ」という、悲しみを表現する所作です。こういう方が、歩くより上手でした。

続いて、貴重な装束を実際に手にとり、羽織ったり身体に巻き付けてみた後、きちんとたたんで元のようにしまう、という実習です。今日はひときわ丁寧に、一つ一つの装束についての説明があり、学生も熱心に耳を傾けていました。以下、写真を並べます。取り出して、開いて、羽織って、互いに文様を見せ合って、たたむ、です。



2011/12/05

芸能の「移動」と「交流」




先週の土曜日、能楽研究所と芸能史研究会との共催により、「芸能の「移動」と「交流」」というテーマの研究会が法政大学で開催されました。



落語や歌舞伎がご専門の今岡謙太郎氏による「幕末における落語家の東西交流」、そして、見世物研究の第一人者でいらっしゃる川添裕氏の「移動・交流への三つの視座」というお二人の基調報告に続いて、中川桂氏(落語や興行史研究がご専門。私のよき先輩でもあります)の司会によるディスカッションが行われました。写真はそのディスカッションの様子。



江戸後期の諸芸能のうち、落語家と見世物興行の事例を中心に、東西間あるいは異文化間の「移動」と「交流」がどのように行われていたのか、その実態を検証するという、ちょっとマニアックな内容でしたが、観客を求めて「移動」しなければならないという「芸能」の本質を浮き彫りにした、大変示唆に富んだ研究会でした。



翻って能楽の例を考えると、江戸時代の能楽師は幕府や藩に抱えられていましたから、藩主や将軍とともに移動することはあっても、観客を求めて「移動」することはありませんでした。その意味でも、江戸時代の能楽師が置かれていた環境が、きわめて特異だったということを再認識したのですが、こうした再発見にこそ、分野の異なる研究に触れる醍醐味があるといってもいいかもしれません。それだけに、能楽の研究者がほとんど出席していなかったのは残念でした。






2011/12/02

続・法政学への招待






法政大学では自校教育として、「法政学への招待」という学部生向けの授業が設けられています。
「法政大学ってどんなとこ?」というのを、いろんな先生が分かりやすく、オムニバス形式で紹介するというもので、今回は法政大学にある三つの研究所(能楽研究所・沖縄文化研究所・大原社会問題研究所)がテーマでした。
能研の担当は山中玲子所長。僅か二十分の持ち時間ながら、パワーポイントを使って手際よく、能研の概要を紹介。能研のことを知っている筈の私も、「なるほどそうだったのか」と思うことがしばしばでした。自分の身近にあるものについては、意外と何も知らないものです。
今回の受講生も、法政に能研があることを、この授業で初めて知った人が圧倒的に多かったのではないでしょうか。


これを機に能研の存在を認識し、能狂言に少しでも関心を持ってもらえればと思った次第です。



追記


投稿した後で、山中所長が同じタイトルで投稿しているのに気付きました。風邪のためのウッカリということでご勘弁いただき、とりあえず私の投稿はそのままとさせていただきます。皆さん手洗い・うがいをしっかりして風邪には気を付けましょう。

2011/11/30

法政学への招待


今年度から始まった、法政大学の自校教育「法政学への招待」。昨日、29日は、法政に古くからある3つの研究所を紹介する日でした。同じボアソナードタワーにあり、いろいろと関連も深い沖縄文化研究所、それから多摩キャンパスにある大原社会問題研究所と、能研の所長3人が、それぞれ20分ずつ(時間オーバーの先生もいましたが)、研究所の歴史や活動内容を紹介しました。
20分という限られた時間でどれだけ能研のことを伝えられたか判りませんが、学生の感想や質問は、おおむね好評。どの研究所についても「法政にこんなことをやっている研究所があったんですね。知らなかった…」という驚きと、「在学中に行ってみたい」「もっと学部生にも宣伝すればいいのに」「能(沖縄・労働問題etc.)に興味を持った」などなどのコメントがありました。
能研に関する質問の中には「能装束はごわごわしているように見えますけれど、糊がきいているんですか?」とか、「失礼ですが能よりも狂言や歌舞伎の方が面白いと思います。どうしてそっちの研究所じゃないんですか?」とか、「うっ」と答えに困ってしまうものも。「重要文化財(吉川家旧蔵の車屋謡本です)があるんですね。是非見てみたいです!」というような感想もありましたが、重要文化財だとなかなか簡単には出せないので、「何だ、タカビー!」と思われるかもしれないな、とかえって心配になってしまいました。
能研は敷居が高いかもしれないし、せっかく来ても古い資料があるだけですが、とりあえず、BTの23階まで上がってくるとこんなに眺めがいいよ、ということで、最後に見せたのが上の写真です。そうしたら、「あの夜景の美しさに感激しました。いつ頃の季節の何時頃にどこで撮影したものですか?」という質問があって、これには爆笑。
能研の資料を手に取ることはなくても、いろいろな学部の学生が「へぇ、法政には能研があるんだ」と知って、それをきっかけに能を見たり、ちょっとでも能のことに興味を持ってくれたら、とってもウレシイと思います。

2011/11/29

「愛染明王」展に行ってきました

神奈川県立金沢文庫で開催されている「愛染明王―愛と怒りの仏―」展に行ってきました。

この展示は、同文庫学芸員で、能楽研究所の客員研究員も務めてくださっている高橋悠介さんが手塩にかけて準備したもので、噂に違わず見応えのある内容でした。真っ赤な身体に憤怒の形相を帯びた愛染明王の信仰は、院政期より盛んになるそうです。なるほど、中世を学ぶうえでぜひ押さえておきたいものです。

本展示では、図像、彫像、関連資料を多数出陳し、愛染明王の世界を体系的に示してくれています。会期は12月4日まで。急ぎましょう! 今日も平日であるにもかかわらず、多くの「歴女」ならぬ「仏女」が熱心に資料に見入っていました。

2011/11/11

東京古典会



今日から東京古典会の大入札会が始まりました。
古典会創立100周年を記念する会とあって、今回はなかなか逸品揃い。是非ほしいけれども、能研の限られた予算ではどうにも届かないものも多く、なんともはがゆいところですが、能研でもいくつか入札を検討しています。戦果は追ってご報告します。

夏の七夕古典会では、光悦謡本と同様の雲母刷料紙を用いた八十島道除(朝倉家臣の出で、後藤堂高虎の右筆となった人物。書家として有名)筆『今川壁書』に入札しましたが、あと一歩のところで及ばず。
後で知りましたが、これには兼担所員の小秋元先生も札を入れられたものの、そちらもダメだったそうで、同じ戦で二度までも敗れたことになります。ところが、その後、京都の古書店の目録に、同じ八十島道除筆の貞永式目が挙がっているのを偶々目にし、能研で購入することができました。しかも、こちらには雲母刷の年代を推定する重要な手がかりとなる、八十島道除の年齢まで書いてあるのが特筆され、獲物を逃してがっかりしていたら、後からもっといい獲物をとらえることができた、といったところでしょうか。

写真は古典会とは関係ありませんが、先日行われた能楽セミナーの第二回目のものです。今回も盛況で90名をこえる来場者がありました。次回は14日の月曜日に行われます。最近『切合能の研究』という著書を出した新進気鋭の研究者、伊海孝充さんが登壇します。乞御期待。

2011/10/30

ウズベキスタンの語り物




皆さん、こんにちは。久しぶりの書き込みです。

10月30日(日)に筑波大学で行われた「ウズベキスタン・日本学生学術フォーラム2011」に出かけてきました。ウズベキスタンから留学している人文社会科学系の大学院生と、中央アジアを研究対象としている日本の大学院生による研究発表が25本近く行われました。

法政大学からは博士後期課程2年のハルミルザエヴァ・サイダさんが、「ウズベキスタンと日本の語り物に関する比較研究―口頭的構成法と語り物の教習方法―」と題する発表を行いました。ウズベキスタンには「ドストン」という語り物があるのですが、芸能の継承は今でも口頭重視でなされているそうです。教習では韻律を保った定型句の伝授に重点が置かれるのですが、あとは即興的な能力を伸ばすことが大事とされているとのことです。

即興性、定型句、詞章の固定化/流動化・・・・・・といったテーマは、日本の語り物を考えるときにも、とても重要な問題であることを再認識する発表でした。

2011/10/25

能楽セミナーが始まりました



今年から能研の主催で行うことになった能楽セミナーが昨日から始まりました。




初回は特別講演として中国古典演劇史の世界的権威でいらっしゃる田仲一成先生(東京大学名誉教授)をお招きし、「日本の式三番・鬼能に当たる芸態は中国にかって存在したか」というタイトルでお話しいただきました。



中国江西省の山間部には古い仮面劇がいくつも伝わっていて、そこには能の「式三番」と同じような翁も登場するそうです。けれども、両者の性格は大きく違うということでした。



少しご紹介すると、「天下泰平国土安穏」を祈願する能の「翁」に対して、中国の翁は、街のおまわりさんのように、限られた地域の安全を守る最下層の土地神に過ぎないこと。そうした違いは中国の権力一極集中型の国家体制とも関係していて、国家泰平を祈願する権利は中国では皇帝にのみ許されていたこと、などなど。他にも興味深い指摘が多くありました。



最近は日本各地の民俗芸能を精力的に見て回っておられるそうで、今なお新しいテーマに取り組まれる旺盛な研究意欲に圧倒されっぱなしでしたが、来年で八十歳を迎えるとは思えない若々しさの秘密も、きっとこんなところにあるのでしょう。



能楽セミナーは来週にも、そして十一月にもあります。ご都合がつきましたら、ぜひご参加いただければと思います。

2011/10/23

日曜日の能研




能楽研究所は土日閉室なのですが、今日の日曜日は父母懇談会があり、専任所員・事務とも通常通り出勤しております。


父母懇談会での能研案内は恒例行事として毎年この時期に行っていて、今日は午前二回、午後二回の計四回、能研の活動と所蔵資料について簡単な説明をし、会議室に並べられた貴重な資料を父母の方々(昔は父兄といいましたが、今は使われないのですね)にご覧いただきました。


光悦謡本、弘化勧進能絵巻、そして、最近能研の所蔵となり、今回初公開となる能絵鑑など、見栄えのする資料を何点も出しましたが、ここでの一番人気は三年ほど前に能面作家の小熊正氏から寄贈いただいた能面たちでした。





小面から深井になると、こんなふうに顔が老けていくのですよ、などといったところに皆興味津々。やはりモノが実際にそこにあるというのは効果絶大です。



あらためて寄贈者の小熊さんに感謝した次第です。

2011/09/27

能を知る新しい扉

十月から第十六回法政大学能楽セミナーを開催します。

関係部署との粘り強い交渉の結果、今年はなんと受講料の無料化が実現しました!!。

お金はないけど時間はあるという学生も今回は気軽に参加できますので、ぜひ聞きに来ていただければと存じます。

今年のテーマは「能を知る新しい扉」。概要は下記の通りです。


 六百年以上にわたって演じ続けられてきた能は、今や日本を代表する伝統芸能の一つとして、広く世界に知られていますが、そこには能といえば幽玄、世阿弥といった、固定的なイメージがしばしば付きまといます。
今年の能楽セミナーは、そうした能を取り巻く様々なステレオタイプを再検証していきたいと思います。中国古典演劇の世界的権威である田仲一成先生をお招きしての特別講演に続き、世阿弥の能のしくみを新たな視点で探る試みや、「幽玄」ではない能の作品群、そして、女性や外国人が演じた能の歴史にも光を当て、これまであまり顧みられることのなかった能の「知られざる一面」をご紹介します。

第1回 10月24日(月)18:00~20:00 
 特別講演「日本の式三番・鬼能に当たる芸態は中国にかって存在したか」 
  田仲一成 (東京大学名誉教授)
  興福寺呪師走りの翁、黒川能、吉良川御田祭りなど、日本芸能は多彩な式三番およ
  び鬼能の芸態を保存していますが、中国大陸では、現存の仮面系芸能にも歴史記
  録にも、わずかな痕跡が残るだけです。かって我々の世代は、仮面は大陸からきた
  と考え、大陸を探し回ってきましたが、むしろ、日本の芸能の諸相から、失われた過
  去の大陸の芸能を復元する道を考えた方がよいように思っています。今回は、その
  ようなお話を申し上げたいと思っています。
第2回 10月31日(月)18:00~20:00 
 「観客にやさしい世阿弥の能 ―すべては言葉で説明される―」
  山中玲子 (法政大学能楽研究所教授)
第3回 11月14日(月)18:00~20:00 
 「「塩辛き能」の世界 ―儀理能・泣キ能・切合能―」
  伊海孝充 (法政大学文学部専任講師)
第4回 11月21日(月)18:00~20:00 
 「昔は○○も能を舞った ―女と大道芸人と外国人が舞った能―」
  宮本圭造 (法政大学能楽研究所准教授)
会場: 法政大学(市ヶ谷キャンパス)
     ボアソナード・タワー26階スカイホール
      千代田区富士見2-17-1
      JR・地下鉄各線 市ヶ谷駅または飯田橋駅より10分
対象: 日本の古典芸能や芸術・文化・歴史に関心をお持ちの方
今年度より受講料を無料にしました。事前の申し込みも不要ですので、当日直接会場にお越しください。また、途中回からの参加も可能です。
ただし、各回とも定員(100名)を超える場合には、ご入場をお断りする場合もございます。

お問い合わせ先:
  〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1 ボアソナード・タワー23F
  法政大学能楽研究所(http://www9.i.hosei.ac.jp/~nohken/)
  TEL:03-3264-9815(祝日除く月~金 10:00~11:30、12:30~16:30)
  FAX:03-3264-9607


主催:野上記念法政大学能楽研究所

2011/08/29

死者と楽しむ盆踊り



能を専門にしておきながら、ここでこんなことを言うのはちょっと憚られるのですが、いろんな芸能の中で私がもっともこよなく愛しているのが「盆踊り」です。


盆に合わせて故郷に帰ってくる死者、その死者を懐かしんで、亡き人の生前に想いをはせる生者。それぞれが様々な思いをかかえながら、交歓のひと時を過ごす。でも、その楽しい時間はやがて夜が明けるとともに過ぎ去っていく。夏の夜の独特の雰囲気とともに、そんな切なさを感じさせるところが、たまらなくいいのです。


それで毎年夏になると各地の盆踊りを見て回るのが恒例になっています。昨年は大分の姫島まで遠出しましたが、今年は関西の自宅から車で十分足らずのところにある木津川市上狛のしょうらい踊りに行ってきました。


踊り場には祭壇に盆灯籠がいくつも並べられ、その前で踊られます。踊り子が全員白装束なのは、死装束を表しているとのこと。つまり、死者と同じ姿になって、ともに踊っているということなのでしょう。

「死者と共に楽しむ」という盆踊り本来の姿が、きちんと残っていることに大きな感銘を受けました。


今では盆踊りといえば江州音頭や阿波踊りが全国を席巻していますが、地域色豊かなこうした盆踊りもまた、失われることなく長く続いてほしいものです。



2011/08/26

ちょっと新しい研究



 8月8日の世阿弥忌セミナーで、ここ数年来、工学系の先生たちと協力しておこなっている文理融合研究の中間発表をしてきました。下にアップしたのはその研究成果の一部です。画面の黒装束の人形は、能「鶴亀」の仕舞を舞っています。これは、能役者のかたに鶴亀を舞って頂いてそれをCGにしたのでは「ありません」。そうではなくて、サシ・ヒラキ・左右etc. 能の所作単元を別々に(鶴亀とは関係なく)撮影してデータベースにしておき、型付に出てくる順番に引用して合成したものです。まだ、いろいろと変なところはありますが、何度も試行錯誤を重ねた結果、とても高いソフトを使えばこのぐらいまで復元できることが判りました。



今、誰もが簡単にこうした合成作業ができるようなビューアの作成に向けて研究を進めています。この研究が目指しているのは次のようなことです。



1)型付に記されている情報だけを頼りに、こうした技術でできるかぎり正確に復元した舞と、実際に能役者が舞う舞をくらべ、型付に記されてはいないけれど能役者が自然に身につけている、所作単元と所作単元をつなぐ部分の知恵を明らかにする。



2)今まで解読がむずかしかった古い型付資料の解読にこのツールを利用する。資料に出てくる所作単元をつなぎ、1の作業で得た知識を使いながら、古い演出をある程度復元することは可能なはず。



以上、ちょっと新しめの研究のご紹介でした。






2011/08/23

日本文學誌要&能楽研究


今年の夏も大変暑いですが、みなさま体調を崩していないでしょうか?
数日前から急に涼しくなり、少し頭が働いてきたせいでしょうか、大切なお知らせを掲載し忘れていたことに気づきました。
先月、能楽研究所の紀要『能楽研究』35号、法政大学国文学会誌『日本文學誌要』84号が刊行されました。

『能楽研究』は宮本所員、中司所員の論文、山中所長・深沢希望氏(法大院生)作成の型付索引、そして充実(?)の研究展望・能界展望が掲載されています。詳しくは、能楽研究所のWEBサイトを御覧ください。
http://www9.i.hosei.ac.jp/~nohken/kiyo-mokuji31.html#nogakukenkyu35

『日本文學誌要』は昨年9月にお亡くなりになった表章先生の追悼号となっています。追悼文と論文のほかに、「表章先生の仕事」と題して、諸先生方に表先生の研究を回顧していただいております。詳しくは、法政大学文学部日本文学科のWEBサイトを御覧ください。
http://nichibun.ws.hosei.ac.jp/wp/?p=239






2011/08/05

法政大学エクステンションカレッジ「大人のための古典文学」が、チャリティ講座として開講されます

法政大学エクステンションカレッジでは、2003年度より「大人のための古典文学」と題する教養講座を開講してきました。本講座は法政大学で古典文学を専攻する教員が、毎年一つのテーマのもと、リレー形式で各時代の作品を講読してゆくというものです。

本年度、エクステンションカレッジでは、東日本大震災の復興支援の一環として「チャリティ講座」を開講することになりました。そして、「大人のための古典文学」もチャリティ講座として開講されます。チャリティ講座では受講料の一部を寄付金といたします。古典文学に触れてみたいと思う方々に、ぜひともご参加いただきたく、ご案内申しあげます。講座の概要は以下のとおりです。

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大人のための古典文学
「試練のときに――文学の力、あるいは文学の非力」


 あまりにも大きな爪痕を残し、現在も止まるところを知らない災禍を目の当たりにし、命とは、人間とは、文明とは…と多くのことを考えざるを得ない日々が続いています。
 そんな今、古典文学はあまりにも非力です。それでも、この列島に生きた人々がどのように厳しい自然の試練や人間自身の過ちによる危機に向き合ってきたのか、そこであらゆる喪失をどう受け止め、悲哀をいかに生き抜いてきたのか、さまざまに描いてきた作品があります。災害に限らずとも、人が自然にどのような目を向け、どう関わってきたのか、あるいは、人と人がどのように心を寄せ合い生きてきたのか、古代以来の文学が記録してきた人間の営み、人の生の捉え方から、今日を生きる私たちが学べることはないでしょうか。地震研究において古代からの記録の意義が見直されているように、いにしえの人々の言葉に耳を傾け、一緒に思いをめぐらせてみませんか。

各回の講師・テーマ

10月 8日(土) 田中優子(社会学部教授)
 「震災を読む、闇を読む―新井白石の自伝文学『折たく柴の記』 その他より―」

10月15日(土) 横山泰子(理工学部教授)
 「安政の大地震と関東大震災をめぐる語り」 

10月29日(土) 小林ふみ子(文学部准教授)
 「天災と人災に向き合う江戸の知恵―杉田玄白『後見草』と天明狂歌師たち―」

11月19日(土) 阿部真弓(文学部教授)
 「野分の風を見つめる人々-『枕草子』『源氏物語』を中心に -」

11月26日(土) 山中玲子(能楽研究所教授)
 「寄り添う心―『発心集』―」 

12月 3日(土) 小秋元段(文学部教授)
 「中世の災害を生きる―『方丈記』―」

12月10日(土) 伊海孝充(文学部専任講師)
 「水を司る龍―能〈河水〉―」

時間は毎回、13:30~15:40です。

定員 100名

受講料 一般5,000円、大学生・大学院生3,000円、高校生1,000円

 (「大人のための古典文学」では受講料の50%以上を寄付金とする予定です)

後援 法政大学 国際日本学研究所 能楽研究所 文学部日本文学科

申し込み 法政大学エクステンションカレッジ 03(3264)6243 https://www.hosei.org/ (ホームページからの申し込みが可能です)

なお、同じチャリティ講座として、「尾木ママが語る「大震災後の子どもと教育」」、沖縄文化講座「沖縄の音色と共に沖縄文化にふれる」が開講されます。詳細はチラシをご覧ください。

2011/08/02

能研 by AERA











受験生を対象にした大学紹介の雑誌「AERA ムック」の法政大学バージョンが発売されました。
法政を代表する研究所として、われらが能研も見開きで紹介されています。

タイトルには
      「能楽研究をリードする総本山」 
       「質量ともに「世界一」
      「能研究者なら誰もが訪れる」
とすごい文句が並んでいます。
「質量ともに「世界一」」は、能研スタッフのこと、ではなく、おそらく蔵書のことだと思います。残念。

全身法政カラーに包まれたインパクトある表紙。書店で手にとるのはちょっと恥ずかしいかも知れませんが、ぜひ御覧ください。

2011/07/22

色替わり本『倭名類聚鈔』

先日の七夕古書大入札会で挑んだ色替わり雲母摺文様料紙の『今川壁書』は、1万円の差で落札できませんでした。残念。

そんな折、静嘉堂文庫美術館で開催されている「日本における辞書の歩み」展に行ったところ、おもしろい資料に出会いました。色替わりの料紙を使用した『倭名類聚鈔』です。江戸時代初期書写とのこと。『倭名類聚鈔』は平安時代、源順(みなもとのしたごう)が編纂した辞書で、江戸時代には出版もされて大いに読まれました。

幾色の料紙が使われているのかわかりませんでしたが、こんな遊び心のある辞書を使うのは楽しいでしょうね。

会期は7月31日まで。東急田園都市線二子玉川駅からバスで10分です。静嘉堂文庫美術館は三菱財閥の岩崎彌之助・小彌太収集の古書・古美術品を収蔵する美術館です。門を入り、200メートルほどの森をゆるやかに登ると、現在も文庫として使われている洋館と、美術館の新館が現れます。とてもよい雰囲気です。おっと、向こうから地井さんが・・・・・・。

2011/07/15

上手下手なし


先日、山中所長とともに名古屋に行ってきました。能研に寄贈いただくことになった幸流小鼓方の名家、山崎家伝来の資料を受け取るためです。

といっても、手で運ぶのではなく、運送はすべて日通さんにお願いしましたので、梱包作業は任せっきり。とっても手際のよく、かつどこまでも行き届いた梱包ぶりに、山崎家の資料を伝えてこられた中條さんと、山中・宮本はともに感嘆しきりでした。

さて、その山崎家伝来の資料、能研の書庫にしっかりおしまいしていましたが、今日は所員のスタッフが沢山来ていましたので、ちょっとお披露目です。
一番左の鼓胴には「無上手下手」の銘があり、上手でも下手でも見事な美音を奏でるという名胴。京都を襲った元治の大火の時も、山崎家の先祖が抱えて救出し、なんとか無事だったと伝えられています。

それにしても、鼓胴に施された蒔絵のすばらしいこと。所員一同、目の保養をさせていただきました。でも、やはりナマ音を聞いてみたい。いつか、この名胴を実際に聞く催しも計画しようと思っています。最後になりましたが、貴重な資料をご寄贈いただいた中條様にあつく御礼申し上げます。

2011/07/10

七夕古書大入札会のこと

七夕古書大入札会が行われました。7月8・9日が一般の人も参加できる下見で、今日(10日)が業者による入札日です。私たちのもとには事前に図版入りの目録が届くので、それを見て入札を検討します。そして、下見で実物を見て、購入するかどうか、入札金額をどうするか、決定します。入札金額については、懇意な古書業者に相談することもあります。

さて、今回、目を引いたのは、慶長刊の古活字版『徒然草』です。慶長期を代表する美本、嵯峨本の前段階に位置づけられる本で、色替わりの料紙に雲母刷文様が施されています。書体は嵯峨本とは異なりやや古朴で、まことに嵯峨本の前形態というにふさわしい貴重な本です。で、最低入札価格は2000万円。誰が入札するんでしょう?

それから、八十島道除筆『今川壁書』。こちらは能書家による鑑賞用、書道のお手本用としての写本で、やはり料紙は色替わりで雲母刷文様が施されています。色替わり、雲母刷の料紙は嵯峨本のトレードマークのようなものですが、この装訂による写本もいくつか知られています。『今川壁書』はまさにその一つなのです。最低入札価格は5万円。これなら個人でも入札できる!

しかし、この本、知る人ぞ知る資料で、林屋辰三郎ほか編『光悦』に紹介され、1999年にMOA美術館で開催された特別展「光悦と能―華麗なる謡本の世界―」にも出品されたことのある名品なのです。下見会場にはご丁寧にも(余計なことに)その際の図録のコピーも並べられていました。

救いは、この本が「古典籍」のコーナーではなく、「古文書」のコーナーに出ていたこと。そして、目録での扱いもささやかで、多くの人に見過ごされている可能性もあります(なわけないか)。ともあれ、それを頼みに私も・・・・・・。

2011/06/18

細川家の本棚から

霧雨の降る中、永青文庫夏季展「細川家の本棚から~中国古典籍の世界~」に行ってきました。永青文庫は熊本藩細川家の文化財を今日に伝え、能面や能装束のコレクションでも知られています。

今回の展示では、慶應義塾大学附属研究所斯道文庫に寄託されている漢籍の中から、優品三十数点が出品されています。唐代書写の敦煌本『文選注』が目玉です。そのほか、明代の弘治版、嘉靖版『文選』、清の乾隆帝の命により刊行された活字版、武英殿聚珍版『易経』、室町時代に開版された天文版『論語』など、日中の出版文化史を知るうえで貴重な書籍が見られます。

場所は 文京区目白台。雰囲気のよい洋館です。周囲は深い木立で、休日の散策にピッタリです。文庫の前の石段を下ると神田川です。なんだか向こうから、地井さんが歩いてきそうな感じがしませんか?

夏季展の終了後、新春まで休館だそうです。行くならいま。

http://www.eiseibunko.com/index.html

2011/06/14

観世黒雪からの手紙

少し前のことになりますが、「江戸時代を世界遺産に」というブログを開設されている方から、九世観世大夫黒雪の書状についての情報をいただきました。
ご所蔵の黒雪書状を能研まで実際に持ってきて下さり、山中と宮本の二人で拝見しました。















光悦流の書家としても有名な黒雪の書状だけに、「書」としてもなかなか見応えがあります。
宛先の「木右京」は、彦根藩井伊家の家老、木俣右京。しばらくご無沙汰が続いているが、主君の井伊掃部直孝とともに上洛の節、対面して積もる話をしたい、という内容の書状です。

このような書状を能楽史の資料として扱う場合には、まず何年に書かれたものかを特定する必要があります。
年を確定する手掛かりは二つ。

一つは、観世黒雪の署名が「黒雪斎/暮(花押)」とあることです。それまで「観世左近大夫」を名乗っていた黒雪が「黒雪斎」と改名したのは、元和七年(一六二一)末か、翌元和八年はじめのこと。この書状には「黒雪斎」とありますから、当然それ以後のものということになります。

もう一つは、井伊直孝が「御上洛」の供奉を務める、とあることです。直孝は寛永三年六月、後水尾院の二条城行幸のともなって将軍家光が上洛した際、彦根城から供奉の列に加わっていますから、先の書状は、どうやら寛永三年のものである可能性が高いようです。

この書状とともに、十五世観世大夫元章が「梅」の絵を自ら描き、その賛として自作の能「梅」の一節を記した「梅」自画自賛の軸も見せて頂きました。
「江戸時代を世界遺産に」のブログに、黒雪書状とともに写真が載せられています。ご関心がおありの方は、どうぞ御覧下さい。http://blog.livedoor.jp/sesson_freak/archives/50355706.html

2011/06/13

観世アーカイブ

先日は、観世文庫に調査に出かけてきました。

観世文庫には、世阿弥自筆本をはじめ、伝書・謡本・型付・書状など、
観世宗家に伝来した貴重な能楽資料が多く保管されています。
それらの資料を一点一点調べ、書誌と解題を付けて、
画像をインターネット上のデータベースで公開する、
というプロジェクトによる調査です。
松岡心平先生(東京大学教授)を中心に、
科学研究費補助金により行なっている研究プロジェクトで、
山中先生・宮本先生をはじめ能研のスタッフも参加しています。
私、高橋も編集などを手伝わせていただいています。

観世宗家の英断によって、ネット公開が始まったのが2009年の秋で、
能楽研究上、画期的なことでした。
今、それをより充実させるべく、調査を続けているのです。

ネット上のデータベース「観世アーカイブ」
http://gazo.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/kanzegazo/index.html
は、世界中のどこからでも、誰でも見ることができますので、
ぜひのぞいてみて下さい。
検索画面はこんな感じになっています。










データベースはまだ構築の途中で、不備も多いのですが、
少しずつ改善していく予定です。

2011/06/12

新・能楽講座 〈鵺〉徹底分析 が始まりました

皆さん、こんにちは。鬱陶しい季節ですが、いかがおすごしでしょう?

さて、今年も法政大学エクステンションカレッジ、新・能楽講座が始まりました。今年とりあげるのは〈鵺〉。6月11日(土)に第1回の講座が催され、私こあきもとが本説となった『平家物語』のお話をしました。お聞きくださった皆さま、どうもありがとうございますm(_ _)m

『平家物語』巻四には源頼政による二つのヌエ退治の話が載せられています。一度目に頼政が仕留めたのは、頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎という合体怪獣で、鳴き声が鵺に似ているというものでした。二度目に退治したのは、鳥の鵺そのものです。

鵺は「ヒヒ」と鳴いて、その声が不吉なものと考えられていたようです。平安時代には、その鳴き声を聞こうものなら占いをしたり、呪文の和歌を唱えたりと、対応が結構大変だったみたいで(笑) 

ただでさえ鳥は冥界と行き来する存在。特に、夏の夜を代表するホトトギスは、その鳴き声がシデノタオサと聞きなされ、死出の山からやってくる鳥とも考えられていたことは有名ですよね(西村亨『王朝びとの四季』講談社学術文庫、解説:益田勝実)。

わが鵺も、古記録上、四月から六月(旧暦)までの夏に散見されるようで、ちょうど今のような時期の晩に登場したのでしょうか……。

2011/05/22

よも尽きじ(2)

















イシイさんの投稿を見て思い出しました。これは先日、「空海からのおくりもの」を見に印刷博物館へ出かけたおり、ミュージアムショップで買った絵はがきです。明治38年の「引札」(商店の宣伝チラシ)だそうですが、お酒の宣伝といえば、猩々だったのでしょうね。





よも尽きじ(1)

 ひょんなご縁で、先日とある方から月岡耕漁『能楽図絵』の「猩々」を頂戴して、ちょっとご機嫌のイシイです。月岡耕漁(1869~1927)は能の舞台絵を描くことを専らとした能画家。浮世絵師の月岡芳年などに師事したことが知られていますが、歌舞伎の役者絵とは違った、木版画でありながらまるで水彩画のような表現は実に魅力的です。

 高風という親孝行な酒売りのところへやってきては酒を飲む客がいるが、いくら飲んでも顔色一つ変えない。不審に思った高風が名を尋ねると、その客は、自分は潯陽の海中に住む猩々だと名乗る。高風が潯陽のほとりで酒壺に酒を湛えて待っていると、猩々が海中から姿を現し、孝行な高風を褒め、ほろ酔い気分で舞を舞い、泉のように汲めども尽きることのない酒壺を高風に与えて消えてゆく。これが「猩々」のあらすじですが、耕漁は猩々が楽しげに舞を舞っている様子を上品に描き出しています。

 ところでこの「猩々」、よく見ると左隅から誰かが舞台を興味津々で覗き込んでいますね。実はこの人(?)オランウータン。猩々はオランウータンだとする説があるので、耕漁は「リアルオランウータン」を観客として登場させたというわけです。茶目っ気があって素敵ではありませんか!一人でニヤニヤ眺めているだけでは勿体ないので、自分の研究室に飾ってやろうと目下画策中。さてどうやってスペースを作ろうか。

2011/05/20

新・能楽講座Ⅷ-〈鵺〉徹底分析-



能楽研究所では、法政大学エクステンション・カレッジと協力して、能楽講座を開講しています。能楽全般に関する概説的な講座ではなく、毎年1曲を取り上げて様々な方向から掘り下げる講座を、と始めた新シリーズも8年目を迎えました。今年のテーマ曲は〈鵺(ぬえ)〉です。
頭は猿、尾は蛇、手足は虎のようだという化け物の話を聞いたことはおありでしょうか。能〈鵺〉は、『平家物語』に描かれた「頼政の鵺退治」の物語を元にして、世阿弥がその晩年に作ったと考えられています。さすが世阿弥!とうなりたくなる名曲です。

講座は6月11日から7月16日まで、毎週土曜日の午後2時~4時。市ヶ谷キャンパスで行います。
受講者の方(希望者のみ)は、7月30日(土)に、東京青山の銕仙会能楽研修所舞台で行われる「青山能」〈鵺〉の公演を、団体割引3000円でご覧になれます。

定員まで10名ほど余裕があります。どうぞふるってご参加ください。
お問い合わせは 法政大学エクステンション・カレッジまで
 03-3264-6098

         ホームページからもお申し込み可能です  https://www.hosei.org/

山中先生と胡蝶蘭



遅くなりましたが、4月新年度から山中玲子先生が能楽研究所の所長に就任されました。(前任の坂本勝先生、大変おつかれさまでした。)
この書き出しで、先日ブログを書いたのですが、サイトの問題で消滅してしまいました。
なので、再度アップさせていただきます。前回記事をご覧になったみなさま、不審に思われたことと思いますが、そういうわけで、以下の重複投稿をお許しくださいませ。

さて、山中先生の就任をお祝いくださって、然る方がご覧のような豪華な胡蝶蘭を贈ってくださいました。胡蝶蘭に寄り添うのは、今日はぐっとフォーマルなお顔の山中先生です。
震災以来、心晴れない毎日でしたが、このお花の存在がひときわ明るいオーラを放っていて、とても癒されるのです。美しいものが持つパワーは素晴らしいですね~。

ところで、5月も下旬に入ってここのところ夏のような暑さが続いていますね。この夏はどこも節電体制ですが、能研も多分に漏れず鋭意節電中です 
申し訳ありませんが、冷房を入れるのはもう少し先になりそうです。我が研究所はタワービル内なので、見晴らしは最高なのですが窓が明かないのが難なんです。(T_T)

閲覧室ご利用のみなさま、どうぞ眼のやり場に困らない程度(?)の軽装でお出でください。また、閲覧室内での飲食は禁止なので、室外でマメに水分補給と休憩をお取り下さいね。
みなさまのご利用をお待ちしております。(^o^)丿

2011/05/11

空海からのおくりもの(続)

先日、印刷博物館の企画展示「空海からのおくりもの」の紹介をしました。このたび、法政大学文学部日本文学科サイトでも、同展示の紹介を動画つきで行いましたので、お暇な方はご覧ください。

http://hoseinichibun.blog65.fc2.com/

2011/05/07

能役者・写楽

地震の影響で期間が変更になるなどのアクシデントに見舞われつつも、このゴールデンウィークから東博で「写楽展」が開催されています。なんでも、戦後最大規模(死語?)の展示とのこと。
それに合わせて、NHKが写楽を特集した番組を放送します。放送日は明日日曜日の夜。

http://www.nhk.or.jp/special/onair/110508.html

写楽が能役者斉藤十郎兵衛と同一人物であるという説に従った番組になるようで、番組作成に先立って能研に来られたスタッフの方から、江戸時代の能役者の生活がどうであったのかなど、色々な質問を受けました。
斉藤十郎兵衛が江戸城の能に出演した場面もドラマ仕立てで再現、スタジオに舞台までこしらえて本格的な撮影が行われたそうです。

2011/05/03

ipad2 付『切合能の研究』

 年度末、研究所の重要業務(恒例行事?)となっているのは、2、3年前の研究論文などを紹介する『能楽研究』の研究展望作成です。近年は分野別に担当者を決め、所員総出で作成するようになっています。勉強になることも多いのですが、年度末に30本以上の論文を読むのは、結構な重労働で、他所員の進捗状況を気にしながら、青色吐息で仕事にあたっています。

 原稿作成ことも大変なのですが、さらに厄介なのは膨れ上がる論文コピーの量!普段から論文や資料で、多くのコピー用紙を抱えているのですが、この時期のカバンの重さときたら…

 この状況を打開すべく、以前からipadの購入を考えていましたが、「2」の発売と同時に、とうとう買ってしまいました。大事な本を裁断して「自炊」しようとは思いませんが、論文のコピーや資料の写真をこれで管理できれば、きっと整理整頓が進むのではないかと希望的観測をしています。うまくいったら、一番机が散らかっている所員にも勧めようと思っています。

 さて、肝心の『能楽研究』最新号ですが、間もなく刊行となります。今しばらくお待ちください。

 最後に個人的な宣をさせていただきます。

 2月25日に『切合能の研究』を刊行しました。「チャンバラ能」とも称される武士の合戦を描いた能の研究書です。「世阿弥研究だけではわからない能の追究」という大きな問題の一端だけでも明らかになっていればと思っております。是非、ご一読ください。ちょっと値がはりますので、近隣の図書館などへリクエストをお願いします。

ご購入は檜書店へ

http://www.hinokishoten.co.jp/publication/


 


2011/04/30

翁の源流を訪ねて
























奈良の多武峰(とうのみね)談山神社は、古くは妙楽寺と呼ばれる天台宗の寺が大きな力を持っている神仏習合の霊地でした。


その妙楽寺の常行堂で毎年正月に行われた修正会は、「六十六番の猿楽」という芸能の祭典が僧侶により披露されたことで有名で、世阿弥の『風姿花伝』も、猿楽の〈翁〉は、多武峰の「六十六番の猿楽」に始まると言っています。


しかし、残念ながら、多武峰常行堂の芸能は早くに絶え、現在は行われていません。常行堂の芸能に用いられた翁面が僅かに残り、かつての面影を伝えるのみです。


今回、その翁面が常行堂の堂内で数百年ぶりに復活します。といっても、かつて僧侶によって行われた「六十六番の猿楽」を再現するというのではなく、観世流の常の〈翁〉を、常行堂の翁面を用いて奉納する、という催しです。堂内が狭いため、入場料は少し高めですが、演者は超豪華で、観世流のオールスターキャスト。チケットはすでに売り切れているかも知れませんが、一応告知させていただきます。

前日には、〈翁〉についてのシンポジウムがあり、宮本もパネリストの一人として登壇します。

2011/04/29

空海からのおくりもの


私たち能楽研究所が親しくおつきあいしている外部機関のひとつに印刷博物館があります。今、そこで「空海からのおくりもの」と題する企画展示が行われています。


30代女子向けの(?)とてもしゃれたタイトルですが、実態は本好き・歴史好きを唸らせる、中世古版本の大企画展です。鎌倉・室町時代、高野山の山内では真言密教にかかわる経典・注釈書が盛んに出版されていました。これを「高野版」といいますが、今回の企画展では高野版を中心に、宋版・高麗版・春日版・古活字版等を惜しげもなく展示し、江戸時代初期までの印刷文化の歴史が通観できるようになっています。しかも、展示資料のほとんどは高野山内の諸寺院秘蔵のもので、今回、はじめて山を下りるものばかりだそうです。関係者を口説き落として開催にこぎ着けた学芸員の皆さんの熱意には脱帽させられます。


特に見物は、20点近く展示される高野版と、その鎌倉・室町時代の版木の数々です。高野版をここまでまとまったかたちで見られる機会は、今後、私たちが生きている間には巡ってこないのではないかと思います。「能」とは無縁の催しですが、同じ中世という時代に、都から離れた高野山でコツコツと版木を彫っていた職人さんがいたり、孜孜として読書に励む学僧がいたことに思いをはせてみるのもいいのではないでしょうか。




なお、今回の企画展示の入場料収入は、全額高野山を通じて東日本大震災の義援金にあてられるそうです。それから、お帰りの際にはぜひ図録をお土産に! 高野版の版木をイメージした表紙で、綴じ方は中世古版本に用いられた「粘葉装(でっちょうそう)」ふうにしています。ブックデザインとしてもとても面白いのです。



http://www.printing-museum.org/





2011/04/28

白洲正子展に行ってきました

GWで混む前に…と思って白洲正子展に行ってきました。
出品物は本当に豪華です。すばらしい仏像も曼荼羅図も女神像も古面も…。わたしは特に、平等院の「雲中供養菩薩像(北一号)」(小さな箏のような楽器を弾いている)と、鎌倉時代の相撲人形が気に入りました。

面白いのは、個々の展示物には主催者の解説を付けず、かわりに白洲正子がそれについて書いたエッセイを掲げていること。「白洲正子が訪ねた、寺社の名宝約120件を一挙公開」という宣伝文句にふさわしい、面白いやり方だなと思いました。
ただ、そのため、ちょっと困ったこともありました。実は、白洲正子さんが『二曲三体人形図』について書かれた時にご覧になっていたのは、今回出品している禅竹透き写しの写本ではなく、もっとずっと後の時代のかなり違った雰囲気の絵です(講談社文芸文庫の、白洲正子『世阿弥』で見ることができます)。そこでは、力動風の絵から梅の花が消えてしまっています。その絵に基づいて、今回の展示でも、

  世阿弥の中で「花」というものが、能をつらぬく一つの思想と化していたことがわかるが、…(中略)…砕動風に至ると、花が次第に少くなり、力動風ではまったくなくなってしまうのも、烈しい動きの能では、美しい風情も、幽玄な趣も、影をひそめるからである。

と説明されているのですが、実際に展示されているのは禅竹の忠実な写本なので、力動風にもちゃんと梅の花の絵が描きこまれているのです。こういうところなどは、少しだけでも別の人の補足説明があった方がわかりやすいな、と思いました。あるいは、こういう問題のない他の場所の絵を出しておけば良いのかもしれません。貴重な資料なので、同じ頁ばかり開かないように、展示する頁を変えていて、たまたま今日は力動風の頁が出ていたのかもしれませんが…。


出口のところに飾ってあった、壺を手にして座っている白州さんの写真がとても美しいのも印象的でした。砧公園の中の美術館。新緑もすばらしく、やっぱりおすすめの展覧会です。

2011/04/25

能のワークショップ

 4月23日、法政大学大学国際日本学インスティテュート(大学院の一つです)の授業「国際日本学入門」で、能のワークショップをおこないました。題して「日本でいちばん古い演劇 能楽入門―謡・舞・楽器・衣装―」。90分授業2コマ分の長丁場。
 初めに能研の山中が能についての概説をおこない、その後、観世流シテ方の武田宗典さんのご指導で能の型や謡の稽古を体験。また、同じく観世流シテ方の武田友志さん、武田文志さんにも加わっていただき、それぞれ雰囲気の違う三種類の仕舞を舞っていただいたり、観世流太鼓方の小寺真佐人さんに、能の囃子で使う楽器の説明や太鼓の演奏をお願いしたりもしました。盛りだくさんのプログラムです。
 実演の部分は写真を撮ることができませんが、能装束の着付け(普段は非公開)を見せてくださった部分と、囃子についての解説の様子を写真に撮りましたので、以下にアップします(撮影:高野宜秀)

 
能〈羽衣〉の天人の装束。着物をスカートがわりに腰に巻き付けています。シテの武田宗典さんはじっと立ったまま。着付役の武田友志さんと武田文志さんが、手際よく衣装を着けながら、わかりやすい解説をしてくださいます。


 


天人の羽衣(紫色の長絹)も着け、これから面をかけます。


 





小寺真佐人さんの解説。みんなで掛声の練習もしました。


みなさんお話も上手で素敵な方たちなので、この会の後さっそく、武田宗典さん主催の謡サロンに入会してしまった学生もいるようです。 

只今開催中


震災の日、能研は書架の本が散乱した程度で、書庫の貴重書はさいわい皆無でしたが、「あの資料」がどうなっているのかが心配でした。

「あの資料」とは、ちょうどその時、能研の外に貸し出していた「二曲三体人形図」。世阿弥が能の様々な役柄を演じる際の心構えをイラスト付きで書いた秘伝書で、能研が持っているのは、その最も古い室町時代の写本です。世阿弥の娘婿の金春禅竹が克明に透き写したもので、世阿弥自筆本の面影をもっとも良くとどめていると言われています。
そんな貴重な写本ですから、能研が始まって以来、美術館や博物館には一度も貸し出したことのない、いわば門外不出の資料でした。貸し出しを許可するかどうか、所員の間でも色々議論がありましたが、最終的に貸し出しをすることになり、搬出も無事済んだところに、この震災。もしも万一のことがあれば、その決断を大いに後悔したところですが、幸い、週明けに資料が無事であるとのご連絡をいただき、ようやく胸をなで下ろしたした次第です。

その「二曲三体人形図」が出展される「白洲正子展」が、五月八日まで世田谷美術館で開催されています。他にも、世阿弥の長男元雅が奈良の天河弁才天に寄進した有名な尉面、十二又五郎の三番叟面など、能関係の逸品がいくつか出展されています。
http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html

六百年の天災地災をくぐり抜けてきた強運の品々にどうぞ会いに来て下さい!

2011/04/19

田楽しづやの曲舞(続)




『武蔵野文学』『リポート笠間』『いずみ通信』……。出版社のPRを兼ねたこうした小冊子は、日文(国文)の学部生・大学院生の談話室や共同研究室でよく見かけますよね。私が大学院生のとき、共同研究室の大テーブルの真ん中には、いつも某社のPR誌が山積みされていました。何に使うかというと……。

その頃、お酒の大好きな先生がよく共同研究室にやってきて、酔った勢いで院生たちを「いじる」のです。それはもう怖くて怖くて。先生の気配を察知すると、それまで雑談していた我々は、そのPR誌を取り上げて勉強しているふりをするのです。すると先生は、「なんだ、おめえら勉強中か~」とつまらなそうに帰ってゆく。私にとって出版社のPR誌は、そんな昔を思い出させるものなのです。

閑話休題。先日、京大本『太平記』に田楽しづやの曲舞が出てくることを紹介しましたが、同書の宣伝文が『勉誠通信』に掲載されました。でもこれ、冊子ではありません。web上で閲覧するPR誌なのです。以下のアドレスで閲覧できますので、お暇な方はご一読を!

2011/04/03

まことの花

 昨年10月から刊行されている「新・週刊マンガ日本史」シリーズ、書店で御覧になったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。ひょんなことから、この2月に出た『観阿弥・世阿弥』の監修を仰せつかったのが昨年の秋のこと。「監修」というととてもご大層な仕事のようですが、要は出版社から届いたストーリーや下絵をチェックしてダメ出しをするわけです。

 もう時効でしょうから(?)バラしてしまいますと、最初私の所に届けられた原稿には「現在演じられている能のほとんどが世阿弥の作品」を初めとするかなり昔の学説があちこちで紹介されていて、ツッコミどころ満載でした(笑)。マンガの方も個人的にいろいろ思うところがあって、かなり執拗に直しをお願いしました。何度も「ここはおかしい!」「こういう絵柄には絶対ならない!」と原稿を突っ返したので、編集者さんやマンガ家さんには相当煙たがられたことでしょう。
 
 専門的な学術書ではないこと、ビジュアル的にウケる絵である必要があること、そういう「大人の事情」も勿論わかります。でも、せっかく観阿弥・世阿弥がシリーズに取り上げてもらえたのだから、たとえ小学生向けを謳ったものであってもきちんとした内容にしたいではありませんか。さて、そんな私の切なる願いは一体どこまで叶えられたか。お知りになりたい方は、今すぐ書店へ!(笑)
(朝日新聞出版 新・週刊マンガ日本史(第17号)『観阿弥・世阿弥』,2011年2月刊,490円)