能を専門にしておきながら、ここでこんなことを言うのはちょっと憚られるのですが、いろんな芸能の中で私がもっともこよなく愛しているのが「盆踊り」です。
盆に合わせて故郷に帰ってくる死者、その死者を懐かしんで、亡き人の生前に想いをはせる生者。それぞれが様々な思いをかかえながら、交歓のひと時を過ごす。でも、その楽しい時間はやがて夜が明けるとともに過ぎ去っていく。夏の夜の独特の雰囲気とともに、そんな切なさを感じさせるところが、たまらなくいいのです。
それで毎年夏になると各地の盆踊りを見て回るのが恒例になっています。昨年は大分の姫島まで遠出しましたが、今年は関西の自宅から車で十分足らずのところにある木津川市上狛のしょうらい踊りに行ってきました。
踊り場には祭壇に盆灯籠がいくつも並べられ、その前で踊られます。踊り子が全員白装束なのは、死装束を表しているとのこと。つまり、死者と同じ姿になって、ともに踊っているということなのでしょう。
「死者と共に楽しむ」という盆踊り本来の姿が、きちんと残っていることに大きな感銘を受けました。
今では盆踊りといえば江州音頭や阿波踊りが全国を席巻していますが、地域色豊かなこうした盆踊りもまた、失われることなく長く続いてほしいものです。