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2012/05/14

シンポジウム開催報告

昨日、能楽学会との共催により、「能・狂言の絵画資料」と題するシンポジウムを行いました。



目下展観中の「能・狂言を描く」展に合わせての企画で、宮本の趣旨説明と展示解説に続いて、能研兼担所員の小林健二さんによる基調講演、室町風俗画や絵巻研究の権威でいらっしゃる泉万里さん、東京国立博物館の小山弓弦葉さん、聖母女学院短期大学の藤岡道子さんによる講演の後、講演者とフロアの参加者によるシンポジウムという、盛りだくさんな内容でした。参加者も百十人を超え、大盛況。いつもは静かな特別展の会場も、昨日は人でごったがえしていました。

2012/05/11

「能・狂言を描く」展開催中


今日から「能・狂言を描く」展がオープンしました。

能研の創立六十周年を記念するイベントの第一弾です。

今回は「絵画化された能楽の世界」をテーマに、ビジュアルに富んだ資料の数々を展示しております。


「能楽双六」。中央の「猩々」が「上り」


明治期の錦絵。彩色が実に鮮やかです。














キャプションの印刷・貼り付けもすべて所員の手作りで、ぎりぎりまで準備に追われましたが、なんとかオープンに漕ぎつけることができました。
展示室はこじんまりしていますが、入場無料ですので、お気軽にお出でください。
五月二十四日まで、日曜日を除く毎日、午前十時から午後十八時まで開館しています。

展示の構成は大体次の通りです。

【Ⅰ】能・狂言のピクトグラム
能楽双六、高崇谷筆狂言「節分」図

【Ⅱ】芸を伝えるための絵画
二曲三体人形図、八帖本花伝書ほか

【Ⅲ】役者の面影を記憶する
宮増弥左衛門画像、森田庄兵衛光広画像ほか

【Ⅳ】能・狂言の舞台を描く
能絵鑑、能楽図絵、英一蝶原画狂言図巻、能楽百番ほか

【Ⅴ】能の興行を記録する
大野勧進能画巻、弘化勧進能絵巻、町人御能拝見之図ほか

【Ⅵ】能の物語を描く
熊野絵巻(個人蔵のをお借りしました)、伝松平伊豆守旧蔵謡本、紙芝居「接待」ほか

能画の粉本の数々


2012/04/28

創立60周年記念展示

以前にもお知らせしましたとおり、今年は能楽研究所の創立60周年にあたります。記念行事の第一弾として、5月11日から、研究所収蔵資料の記念展示会を開催します。

入場無料・ご来場歓迎です。


場所は、市ヶ谷キャンパス、ボアソナードタワー14階 博物館展示室。

日曜日は休館ですが、13日の11:30~13:00 は、関連シンポジウムのために、臨時開館いたします。他の日の開館時間は、10:00~18:00 です。 



2012/03/14

解脱上人貞慶

今、本務先の金沢文庫では、解脱上人貞慶(じょうけい、1155-1213)という、鎌倉時代はじめに南都で活躍したお坊さんをテーマにした展覧会の準備をしています。奈良国立博物館・読売新聞社との共催で、貞慶の八百年遠忌にあわせた展覧会です。
貞慶は、平治の乱で敗死した信西(藤原通憲)の孫にあたり、興福寺、そして後に笠置寺や海住山寺で活躍しました。戒律復興につとめ、復興期の南都において多くの勧進状や願文、講式などを制作しており、その関係資料が金沢文庫にも残っています。

一般にはそこまでなじみのない僧かもしれませんが、実は貞慶の著作や思想は、能とも深く関係しています。例えば、〈歌占〉のクセ。

「須臾に生滅し、刹那に離散す、
恨めしきかなや、釈迦大士の慇懃(おんごん)の教を忘れ、
悲しきかなや、閻魔法王の呵責(かせき)の言葉を聞く・・・」

と対句で始まる、あの格調高くも濃厚な文章、
実は貞慶が興福寺を去り、笠置に隠遁した際に、興福寺の師匠に宛てて書いたものが、後に「無常詞」などと呼ばれて流通しており、その一部を転用したものです。
また、〈舎利〉のクセの

「常在霊山の秋の空・・・」
「孤山の松の間にはよそよそ白毫の秋の月を礼すとか・・・」

といった詞章も、おおもとは貞慶の五段式『舎利講式』の一部で、廃曲〈敷地物狂〉にも同文が引用されています。ちなみに、貞慶が『舎利講式』を制作したのは、建仁三年(1203)に唐招提寺で釈迦念仏会を始めたことと関わっているとされます。この釈迦念仏は、唐招提寺長老となる證玄の弟子であった導御の母子再会譚である能〈百万〉にも、「南無釈迦牟尼仏」の響きとなってあらわれています。

貞慶は春日大明神への信仰が篤く、その霊験の話を書物にまとめました。明恵上人をワキとする能〈春日龍神〉には、春日大明神が「上人をば太郎と名づけ、笠置の解脱上人(貞慶)をば次郎と頼み」擁護したとあります。〈春日龍神〉や〈采女〉に描かれる、春日社頭を釈迦の浄土とみなすような観念も、実は、もともと貞慶が称揚したものです。
それに、貞慶自身がワキとして登場し、伊勢に参宮すると第六天魔王があらわれる能〈第六天〉
・・・こうしてみると、能と貞慶との関わりは、なかなか奥深いことがわかります。

この特別展は、貞慶だけに焦点を当てた初めての展覧会です。二会場で開かれ、奈良国立博物館での展示後、規模を変えて金沢文庫でも開催する予定です。まだ少し先ですが、この機会にぜひご覧になって、能の背景にも関わる南都仏教の世界に思いを馳せていただけたら、と思います。

■御遠忌800年記念特別展 「解脱上人貞慶 ―鎌倉仏教の本流―」
会期
奈良国立博物館:   4月7日(土)~5月27日(日)
http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2012toku/jokei/jokei_index.html#
神奈川県立金沢文庫: 6月8日(金)~7月29日(日)

正月七日の翁舞

先日、二月に鹿児島に行ってきたことをご報告しましたが、実はその前の月にも鹿児島に行っておりました。



正月七日に鹿児島神宮で行われる翁舞を見るためで、以前から見に行きたいと思いながら、遠方ゆえになかなか機会がなく、今回ようやく実現したという次第です。



これは一種の鬼追いの儀式で、神主さんたちが社殿の中で「エーイ」と豆をまいて鬼を払った後、びんざさらを持った神主が翁舞の演者の周囲を三回まわり、その後、翁舞の演者が立ち上がって、足拍子を三回踏みつつ短い唱えごとをします。



翁舞そのものは、なんと一分足らずで終わります。五時間近くかけてやってきて、わずか一分とはなんとも非効率な話ですが、研究なんてまあそういうもの。効率を気にしたらやっていられません。


そこまでして、見に行きたかったのは、この翁舞が実に興味深い伝承を伝えているからです。

古い翁舞と共通する文句が詞章に含まれることもさりながら、鹿児島神宮所属の隼人職という芸能者によって演じられるというのが何よりも興味深いところ。


隼人職はこの地域の祈祷師的存在で、同時に鹿児島神宮で様々な芸能を奉仕してきました。その代表的なものが、「隼人舞」と呼ばれる四方固めの舞と、この翁舞なのですが、四方固めの舞と翁舞をともに伝承している点に、翁舞のルーツを考える大きなヒントが潜んでいるようなのです。そのあたりのことは、法政大学の紀要『日本文学誌要』所載の拙稿「「呪師走り」と〈翁〉」をご参照ください。写真でもお分かりのように、翁舞の演者が、鳥兜のような頭巾をかぶっていることも注目されます。



ところで、隼人職はもと四軒あったそうですが、現在は一軒のみ。その一軒のご当主も体調を崩されているとかで、今回、事前に問い合わせたところ、隼人職の方に代わって神主が翁舞をつとめることになるかもしれない、とのことでした。幸い、当日は隼人職の方の体調が回復され、ご本人が翁舞をなさいましたが、後継者がいないため、いずれその伝承は途絶えてしまうかもしれません。能研はこれまでこうした地方の芸能伝承にはほとんどタッチしてきませんでしたが、今後、何らかの形で民俗芸能の記録保存にも取り組む必要性があるのでは、と痛感した次第です。